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「怪我や病気のせいにすることは全然悪いことじゃない」漫画家・島袋全優さんが考える“折り合い”のつけ方<木曜日の相談室 vol.30>

目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」

第30回目のゲストは、漫画家の島袋全優さん。「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、島袋先生に話をお聞きしました。

島袋全優さん プロフィール

1991年8月13日生まれ。19歳の時に指定難病の潰瘍性大腸炎を発症。21歳の時に講談社月刊少年ライバルにてギャグ漫画『蛙のおっさん』でデビュー。闘病しながら漫画を描き続け、2017年にマンガアプリ『GANMA!』で闘病ギャグエッセイ『腸よ鼻よ』を連載開始。入退院を繰り返しながらも、現在は症状が寛解し平穏に過ごしている。

相談①「どうしても脚の怪我を恨めしく思ってしまいます」

すこんぶさん(20代 男性)
私はスポーツが好きなのですが、中学の頃、脚を怪我して手術、入院しました。リハビリをして日常生活は問題なく送れています。
大学生になっても、下手の横好きですが運動部に入り、スポーツを続けています。しかし、脚の痛みと不安感は常にあり、全力でプレーする事は中々難しいです。うまくいかない時に、どうしても脚の怪我を恨めしく思ってしまいます。
怪我は仕方のなかった事ですし、無事に日常生活を送れていることを喜ぶべきだというのは分かります。しかしどうしても怪我との折り合いがつきません。この脚に納得できず、スポーツでうまくいかなかった時に、脚のせいにしてしまいたくなります。
一生付き合っていく身体ですので、この脚を認められるようになりたいです。何かアドバイスをいただけないでしょうか。

あまり深刻に向き合わず、“なあなあ”にする方法も

オンライン取材にもかかわらず、いつもの白塗りメイクでご出演いただきました。
ご準備いただきありがとうございます!(by編集部)

心がとても苦しくなるようなお悩みですね。本当にお辛いと思いますし、私なんかが相談に乗ってもいいのだろうかと心配になりますが、答えられる範囲で真剣に答えてみたいと思います。

私も大腸を全摘し、人工肛門にしたことによって制限されていることが少なからずあります。現在、すこんぶさんは「どうしても怪我との折り合いがつかない」と悩まれているということですが、私は無理やり折り合いをつける必要はないんじゃないかと思います。

すこんぶさんは多分、真面目で真っ直ぐな方なんだと思います。だからこそ、怪我に真正面から向き合おうとしているのだと思いますが、無理に納得しようとして、心に嘘つこうとすると、余計に疲れてしまう気がします。あまり深刻に向き合うのではなく、しばらく“なあなあ”にしておくといい気がします。

怪我によるストレスを吐き出せる場所を見つけよう!

むしろ、脚の怪我と折り合いをつけるのではなく、怪我してしまったことへのストレスを愚痴れる相手、吐き出せる相手を探してみてはいかがでしょう?

日常生活を送るうえでは不自由がないけど、スポーツでは思うように自由が利かない。ここには本人にしかわからない苦悩があると思いますが、実際、私にも理解してくれる人ができて、心が軽くなったのを覚えています。

「ストーマー(人工肛門)外来」といって、専門の看護師さんが外来してくれる制度があって、例えば廃液が酷くて肌荒れしてしまうといった相談もできますし、その症状をお医者さんに伝えてもらって合ったお薬を処方してもらうこともできます。お医者さんもそうですが、相談できる人が周りにいることで、気分はずいぶんと楽になりました

脚の怪我であれば柔道整復師の方など、ぜひ相談相手を見つけてみるといいと思います。あとは、同じ悩みを抱えた患者会のような場所で思いを吐き出したり、ネット掲示板でも同じ状況にある人たちとコミュニケーションを取ることができると思うので、積極的に利用してみるのもひとつの手だと思います。

スポーツ以外の新しい趣味を探すのも◎

すこんぶさんはスポーツがお好きなのだと思いますが、スポーツ以外の趣味も探してみてはどうでしょう?

私は人工肛門になってから、「この身体でも楽しめることを探そう!」と頭を切り替え、新しい趣味を探し始めました。最初は「この身体でどこまでできるんだろう」と手探りでしたが、一人旅行もできるし、温泉も入れることがわかりました。ジョギングをすると痛むけど、ウォーキングなら大丈夫そうだということもわかってきました。

それでもやっぱり身体を動かすことが好きなら、私と一緒に筋トレして、一緒にマッチョになりませんか?(笑)

筋トレは走ったりすることはあまりないけど、ちゃんとカッコいい身体つきになれるし、運動という意味では同じです。私個人としては、それで世の中にマッチョがひとり増えることになるわけですからすごく嬉しいし、万々歳です!

筋トレをおススメする島袋さんのつぶやき

私は病気になる前から筋トレが好きで、受験勉強のフラストレーションを筋トレで解消しようとしたのが最初のキッカケでした。始めたての頃は腕立て伏せもできなかったけど、どんどんできるようになっていくのが楽しくて、いつしかセーラー服もパツパツになるほど身体がデカくなって、一番上の首のボタンも締まらなくなりました(笑)。

筋肉がついたことで体重も62~63kgくらいまで増えたのですが、病気を境に、一時は36kgまで落ちてしまいました。でも、筋肉がなければもっと虚弱体質になっていたと思いますし、「筋力が多めでよかったな〜」と思いましたね。

怪我や病気のせいにすることは全然悪いことじゃない

「昔はちゃんと動けたのに」って考えると、やっぱり辛い気持ちになると思います。

私もストーマを付けたことで、それまでの服が着られなくなったり、それまで難なくできていことも全部ストーマに配慮しなければいけなくなってしまったので、「ストーマなんてなくならないかな」と何度も思いました。今も交換するたびに痛い思いをしています。

でも、もしかしたら将来は今より医療が発達して、この状況もなんとかなるかもしれませんから、今は“なあなあ”でストーマと付き合っていこうかなって考えています。割り切って前を向くというより、楽観的に捉えている感じですね。

昔は深刻に考えていたこともありました。20代前半で人工肛門になって以降、5回もストーマの手術をしたので、お腹も傷だらけになったし、「なんで私、こんなに傷だらけになってまで不便な生活を送らないといけないんだろう」って考えていました。

でも、私の性格なのか、手術を何回か重ねていくうちに慣れ始めて、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」じゃないですけど、「まぁしょうがないか」と妥協できるようになっていきました。

すこんぶさんは、「この脚に納得できず、スポーツでうまくいかなかった時に、脚のせいにしてしまいたくなります」と苦しんでおられますが、脚の怪我のせいにすることは全然悪いことじゃないと思います。自己嫌悪に陥る必要もありません。私も腹筋トレーニングができないのは病気になったせいだと今も思っています。

どうかすこんぶさんも、無理に折り合いをつけようと苦しむのではなく、妥協できるところは妥協してみてください。愚痴を吐き出す相手も作ってほしいですし、ドライブやゲームのような脚を使わないでも楽しめる趣味も見つけられるといいと思います。

スポーツジムに行けば、脚に負担がかからないトレーニング方法を教えてくれるトレーナーさんもいると思います。ということで、ぜひ私と筋トレ仲間になりましょう!

相談②「重い病気の友人にどんな言葉をかければいいでしょう?」

でんこさん(30代 女性)
とても大好きな知人とメールしていたら、たまたま重い病気であることを打ち明けてくれたのですが、こちらからなんと連絡をして良いかわかりません。お見舞いのお返事はしたものの、治療中ではあるがあまり良い結果は見込めないようです。
頻繁にやり取りするほどの仲ではないので、ご家族の時間を優先して欲しいと思いつつ、でもできたら声だけでも交わせる機会があればと思っているのですが、相手のご様子がどうなっているのかわからず、安易に会いたいとか電話したいとか言えません…。
全優先生ならどんな言葉をかける(またはかけてもらいたい)でしょうか?

入院中のお見舞いはいい気分転換になる!

ご存知かもしれませんが、私はお見舞いをされる側でした。

知人が病気だと聞いたら、ショックを受けるのが一般的だと思います。でも、お見舞いされる側からすれば、自分のことでショックを受けさせてしまうことに対して、「逆にごめんな!」っていう気持ちなんですよね(笑)。

なので、難しいかとは思いますが、あまり気にせず、普段どおりの態度で臨んだほうがいいと思います。

もちろん受け止め方に個人差はありますが、私は友達や知人がお見舞いに来てくれたときはすごくうれしかったですね。「最近みんなどうしてるの?」って聞くこともあれば、「私は今、こんな治療をしてるよ」って話すこともあったり。

基本はなんでもない談笑でしたけど、入院中は気が滅入ることが多かったので、いい気分転換になるんです。

入院中の病気話は、“休みの日に仕事の話をしている感覚”

やっぱり入院中や闘病中って、周囲の顔ぶれがずっと一緒になるんですよ。家族、お医者さん、看護師さん……。ありがたいんですけど、毎日がその繰り返しだと、だんだん鬱々としてきちゃうんですよね。

家族がお見舞いにきてくれているときは元気に話せるんですけど、面会時間が終わってひとりになると、スマホか漫画、テレビを見るしかありません。あとはたまに点滴を交換するくらいですね。ずっとひとりでいるから、余計なことばかり考えちゃいます。

なので、友達とラインしたり、電話室で電話したりすることは、個人的にはすごく嬉しかったし、楽しかったですね。入院していると、外部からの情報が入ってこなくなるので、友達からの近況報告はありがたかったです。

むしろ、あまり病気の話はしたくないですね。「休みの日まで仕事の話すんなよ」って感覚に近いと思います(笑)。せっかくの休日にみんなで集まって仕事の話をするなんて、やっぱり嫌じゃないですか。こちらとしては、ずっと病気と向き合っているわけなので、友達と話しているときくらい病気のことは忘れたいというか、気を休めるためにも楽しい話をしたいですね。

もちろん、病気の話を避けるのも不自然なので、軽く話題として出すのは全然いいと思いますし、向こうが病気について詳しく話したがっているなら聞いてあげればいいと思うので、そこは人それぞれですね。

面会制限がある病院ならビデオ通話がおすすめ!

今はコロナ禍の影響もあって、面会制限がある病院も多いので、ビデオ通話でコミュニケーションを取るのもいいと思います。

面会制限のせいでお見舞い品を直接渡せない場合、電子書籍などのギフトカードをプレゼントするのもおすすめです。テレビカードもいいと思います。実はテレビカードって、テレビだけじゃなく、コインランドリーや冷蔵庫にも使えるんですよ。

お見舞いの品に関するつぶやき
(たいへん参考になります…!by編集部)

実際のテレビカードのお写真

映像系のサブスクをプレゼントするのもいいかもしれません。タブレットにイヤホンを挿せば映画なんかも観られるので、これで結構気が紛れるんです。

逆にもらって困ったのは、オルゴールですね。入院中に北海道のお土産っていうことで、でっかいオルゴールをもらったことがあったのですが、嬉しいですけど迷惑になるから病室で鳴らすわけにもいかないし、かさ張るし、申し訳ないけど家族に持って帰ってもらいました(笑)。

「病気になったからこそ再会できた」という考え方もある


もしお見舞いに行くことになった場合、「頑張ってね」とは言わない方がいいと思います。きっとすでに頑張っていらっしゃるので、「私に何かできることがあったら遠慮なく言ってね」って感じで声をかけるのがいいかと思います。

「頻繁にやり取りするほどの仲ではない」ということですが、私の場合、ご無沙汰だった友達がお見舞いに来てくれたときは普通に嬉しかったですよ。高校生の同級生だったのですが、彼女が白血病になってから学校にこられなくなって、疎遠になっちゃったんです。

でも、私が難病にかかったっていう話を聞きつけて、お見舞いにきてくれて、そのときは病院談議で盛り上がりました。本当に久しぶりの再会だったからこそ、病気以外にもいろんな話が尽きませんでした。逆に、病気じゃなかったら再会できてなかったと思うので、すごく貴重な時間でしたね

なので、まずはあまり気を使わず、本人に「お見舞いに行きたいんだけど、体調は大丈夫そう?」って聞いてみてはどうでしょう。もしキツそうであれば、メールで近況報告を続ければいいと思います。

もちろん、今は誰とも会いたくないっていう人もいるだろうし、LINEやメールもしんどいっていう人もいますが、どちらにしてもそのあたりの見極めは難しいので、まずは本人に確認してみてください。然るべきタイミングで会いにいければ、きっと喜んでもらえると思いますよ。