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若者のよさは「怖いもの知らずで、いろいろトライできること」プロバスケットプレイヤー・川村卓也さんが語る“メンタル維持の心がけ”<木曜日の相談室 vol.28>

目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」

今回のゲストは、日本初の高卒プロバスケットプレイヤーとして活躍する川村卓也選手。「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、川村さんに話をお聞きしました。

※インタビューはオンラインで実施しました。

川村卓也さん プロフィール

岩手県盛岡市出身。37歳。2005年、日本の男子バスケットボール界で、初の高卒プロ契約選手としでデビュー。その後、2023年まで8クラブでプレー。日本代表にも選出される。現在は、クリニック活動を通じ、子供から大人まで年齢に関係なく指導にあたる。また、Bリーグコメンテーター・バスケットボール解説者としても活動中。


相談①「就活中でも前向きになれる方法を教えてください」

まなとさん(20代 男性)
いま、大学3年でそろそろ就活が始まります。もうすぐ社会人という未知の世界が待っていて、企業の面接に受かるかどうか、社会人になれるのか、色々と不安です。どうすれば前向きになれるのか、どうすれば環境の変化に上手く適応できるのか、なにか僕にアドバイスを下さると嬉しいです!僕のことを応援してください! 川村選手のキャリアはずっと応援しています!色々なお仕事で僕たちを楽しませてください!

「トントン拍子で就活が進む」と思っている人はいない

まなとさんは就活というイベントに直面して、ちょっとネガティブになってしまっているのかもしれませんね。就職した先の未来がイメージできず、「失敗したらどうしよう」「上手く行かなかったらどうなるんだろう」という不安ばかりが前面に出ているように感じます。

僕は3年後、5年後、10年後を見据えてプロの世界に飛び込んできました。ですから、「自分がどんな選手になりたいか」といったことや、「これからどんなことが待っているんだろう」といった好奇心のほうが大きかったのを覚えています。

世の中は上手くいくことばかりではないので、何事も失敗は付き物です。実際、まなとさんの同級生たちの中にも、トントン拍子で就活が進むと思っている人なんてほとんどいないと思いますよ。だからこそ、「自分はこんな人間になってみせるんだ」という強い意志を持って就活に取り組んでみてはどうでしょう?

1〜2ヶ月後の未来も大事ですが、3年後、5年後、10年後にどうなっていたいかを考えてみてください。成功する未来をイメージしながら歩みを進めるということは、それだけで強みになると思いますし、それだけで気持ちもポジティブに変わると思います!

風当たりは強かったけど「毎日ワクワクしていた」

プロバスケット選手として一歩を踏み出した川村さんの試合中の1枚

僕は高校を卒業してすぐにプロの世界に入りましたが、それはもうすべてが未知の世界でした。当時は大学を経てからプロに進むのがスタンダードだった時代です。誰も歩いたことのない道をひとりで切り拓くしかなかったし、客観的に見れば「1年でクビになったらどうしよう」と不安になって然るべき立場だったと思います。

実際、プロ入り後は不安しかありませんでした(笑)。大学生のレベルでさえも高校生とは全然違って、身体の大きさ、フィジカルの強さもまるで違います。そこをすっ飛ばしていきなりプロの世界に入るんですから、親には「本当にやっていけるのか」と言われましたし、周りからも「大丈夫か」と心配されました。

だけど、僕がそのときに思ったのは、「大学で4年間を過ごしたあとに、またプロ入りのチャンスがやってくるかは定かではない」ということ。目の前にチャンスがあるなら食らいついてでもトライするのが自分らしいんじゃないかと思いましたし、「僕はプロとしてどこまで通用するんだろう」という好奇心もありました。

プロに入って以降は、チームメイトからの風当たりも強かったですよ(笑)。「高校上がりが通用するわけないだろう!」という視線を感じていましたし、最初の数年はひとりぼっちでした。先輩たちが宴席で絆を深めている間も、僕は未成年だから参加できなかったし、練習や試合以外でも孤独を感じる場面は多々ありました。

でもなんていうか、19歳くらいのときって怖いものがないんですよね!守りに入ってしまう弱さがないというか。若いときしかトライできないこともたくさんあったから毎日ワクワクしていたし、周囲からの心配の声も「必ず見返してやる!」とモチベーションに変えていました

若者のよさは「怖いもの知らずで、いろいろトライできること」

「どう環境の変化に上手く適応できるのか」ということですが、自分からグイグイいくことが大事だと思います。やっぱり社会人1〜2年目は先輩たちに自分から声をかけていくといいですよ。そういったコミュニケーションの中で学べることもたくさんあるし、「自分はこういうやつなんです」という自己紹介にもなります。

ビジネスもスポーツも一緒で、若者のよさは怖いもの知らずで、いろいろトライできることだと思います。声を掛けてもらうのを待つのではなく、自分から職場の人のことを知ろうとするために突き進んでいきましょう!まなとさんから声をかけることで、先輩たちもまなとさんに声をかけやすくなるはずです。そうしているうちに仲が深まって、仕事もうまく回っていくようになるんじゃないかと思います。

とにかくネガティブにならないこと。むしろ、前向きにグイグイいっちゃっていいんじゃないですかね。少なくとも、僕はそう生きてきました。今までいろんなチームで、いろんな人を見てきましたが、活躍しているのはやはりポジティブな人たちばかりですよ。

就活もポジティブにトライして、社会人になってもポジティブな自分を確立していければ、きっとまなとさんが成功する瞬間はたくさんやってくると思います!

自分に負けず、明るく笑って、エナジーを持って

「前向きな気持ちの作り方」についてですが、やはり前を向いていたらいいことがあると思います。逆に、どんな場面でも下を向いていたら周りが見えなくなって、殻に閉じこもってしまいます。辛いときほど上を向いて、解決方法を探っていくことが大事なのではないでしょうか。

常に成功をイメージすることが大事だと思います。実際に失敗するまでは、失敗を恐れる必要なんてありません。失敗してから初めて反省すればいいんです。実際に失敗したときも、「やっちゃったぜ!」という具合に、決して下を見るのではなく、天を仰いで、グッともう一度頭を前に突き出す。そうすることで、殻に閉じこもらず、また新しいことに前向きにトライできると思います!

まなとさんは僕のバスケットボールクリニックに参加してくれたり、SNSでコメントをくれたりしていますよね。いつも本当にありがとうございます。

川村さんの主催するクリニックでの一枚

どの世界でも、成功も失敗もあります。でも、失敗を先にイメージするのではなく、まずは成功をイメージして、この先どうなりたいか、どういうことで成功したいかといったことを自分に問いかけましょう。そして誰かと比べるのではなく、自分に負けず、明るく笑って、エナジーを持って頑張ってほしいなと思います。

今までまなとさんが僕を応援してくれていたように、僕もまなとさんの成功を願っていますので、成功したときはまた僕に報告にきてください。ありがとうございました!

相談②「年を重ねるにつれ、プレイ中も思うように体が動かきません」

針千本さん(30代 男性)
中学のときにバスケを始めて20年以上が経ちます。学生時代はかなりストイックに練習をしていましたが、社会人になってからは月に数回、仲間うちで試合をしたり、子供の練習につきあったりと、趣味の延長で続けています。ですが最近、プレイしていて思うように体が動かなかったり、若い人に押し負けたりと、気持ちに体がついていかないことを感じます。負けたくないという気持ちもありつつも、年相応のプレイをしなきゃいけないのではないかとも思っていて、モヤモヤしながら体育館に向かうことが増えました。バスケは大好きなのでできれば切り替えたく、川村さんに気持ちのもちようのアドバイスをいただきたいです。

“最高潮の時代”が頭から離れないことで感じる葛藤

「学生時代はかなりストイックに練習をしていた」ということですが、今も針千本さんの考え方などは非常にストイックだという印象を受けました。

僕はプロとかアマチュアとかはあまり関係ないと思っていて、バスケが好きならいつまでも成長できると信じています。ただ、いただいたご相談内容を見る限り、練習にストイックだった頃の自分の感覚が抜けていなくて、そこで苦労しているのかなと感じました。

若いときは身体も動くし、怪我もしない。一晩くらい寝なくても練習できるという感じだったと思います。その最高潮の時代の残像が今も頭の中に残っていて、当時と現在の自分を比較してしまうからこそ葛藤に苦しんだり、若い子に負けたと感じたりするのかもしれませんね。

積み上げた“バスケットIQ”で戦えばプレーの幅も広がる

身体がイメージどおりに動かなくなるのは、年齢的に自然なことです。バスケに費やせる時間も少なくなっているでしょうし、あまり気にしないでください。若い子たちに対して若さやフレッシュさで勝ろうとしても無理なので、そこは素直に受け入れてもいいのではないでしょうか。

僕は、例えばパワーが強い相手とマッチアップする場合、パワーでは張り合わないようにしています。押して負けるなら引けばいい。針千本さんも30代半ばということですから、若さで戦うのではなく、ここまで積み上げてきた“バスケットIQ”にフォーカスしてプレーすれば、今よりもよくなるんじゃないでしょうか。

針千本さんは多くの経験値をお持ちのはずですから、若い子たちと力と力で戦うのではなく、一歩引いて、相手を分析して、「この選手はこういうプレーが苦手なんじゃないか」「こうすれば相手の裏をかけるんじゃないか」「ここなら俺のほうが上回っているな」って考えていくと、今よりもプレーの幅が広がるんじゃないかと思います。

僕ももともとフィジカルは強くないし、足も速くないし、特別にジャンプ力があるわけでもありません。だからこそ、いかにドリブル一回で、またはステップ一歩で相手とのズレを作るか、相手を守りにくくさせるかといったことばかり考えていました。でも、こういう頭を使ったバスケって、それはそれですごく楽しいんですよ!

子どもとの練習で学ぶことも多々。大事なのは観察すること

「子どもの練習に付き合っている」ということですが、これはすごくいいことだと思います。子どもって、不意にすごい動きをしたりするじゃないですか。僕もそれに惑わされて逆を突かれることが多々ありますし、そういうところにいろんなヒントが隠れていると感じています。バスケットを教えているつもりが、気づけばバスケットを教わっているんですよ。

子どもの練習だけではなく、他人の試合を観戦するときも「今日はどんな発見があるかな」と思いながら観ると、いろんな気付きが得られると思います。NBAもBリーグも開幕しましたが、「なんでこのベテラン選手は、この歳でまだコートに立てるんだろう」という見方で観察してみてください。針千本さんなら、きっとその理由や秘密に気がつくはずです。

針千本さんはここからまだまだ伸びる要素がたくさんある気がします。僕のアドバイスをキッカケに何かを掴んでくれたら嬉しいですし、これを機に今まで以上にバスケが好きになってくれたら嬉しいです!

競技者って、常に自分と相手を比べたくなるんですよね(笑)。だから正面からぶつかって比較したくなる気持ちもわかるんですけど、バスケット選手には年相応の戦い方があります。針千本さんなら、バスケットIQの高さで立派に勝負できると思いますし、思い切って切り替えてみれば、体育館に向かう足取りも今より軽くなるのではないでしょうか。

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