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「子どもが運動しないのは、親が運動していないから」体操のお兄さん・佐藤弘道さんが考える“子どもの運動不足問題”とは<木曜日の相談室 vol.29>

目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」

今回のゲストは、NHK「おかあさんといっしょ」で第10代となる体操のお兄さんを務めた佐藤弘道さん「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、佐藤さんに話をお聞きしました。

佐藤弘道さん プロフィール
1968年7月14日生まれ 日本体育大学体育学科卒業 東京都出身。
1993年4月よりNHK E-テレ「おかあさんといっしょ」第10代体操のお兄さんを12年間、「あそびだいすき」3年間、計15年間教育番組にレギュラー出演。
2002年、有限会社エスアールシーカンパニー設立。幼稚園・保育園・こども園で正課体育と課外体操教室、また全国で親子体操、講演会、指導者実技研修会を実施。
2015年、弘前大学大学院医学研究科博士課程修了 医学博士取得
弘前大学医学部学部長講師、大垣女子短期大学客員教授、名城大学薬学部特任教授


相談①「子供たちの運動不足問題について」

お口と歯を守り隊さん(30代 女性)
私は、大阪で歯科衛生士をしています。日々、患者さんと関わる中で運動不足による口腔内へのトラブルが多くみられます。
体の成長と口腔の成長において、それぞれの運動量はとても大きく関係します。
歯並びや噛み合わせ、虫歯がない機能的な口腔の成長の助けとなる運動の重要性を日々発信しているのですが、近年、子供が伸び伸びと運動ができて、体を動かすことが嫌いな子でも楽しいと思えるチャンスを増やすためには、私たち大人はどのように環境を整えることが良いのでしょうか。
また、ひろみちお兄さんは、運動不足の子供たちをどのように受け止め考えていらっしゃいますか。どうぞよろしくお願い致します。

スポーツマンにも運動不足の人はたくさんいる理由

僕は、子どもが運動しないのは、親が運動していないからだと思っているんです。

まず、運動とスポーツは別種のもので、運動は競技性がありませんし、普段の生活におけるすべての動きが運動に含まれるから、万人のものだと言えます。一方で、スポーツについては野球やサッカー、バスケなど、各ジャンルの選手たちが取り組む特別なものですよね。

子どもにとって、大人というものは環境そのもの。
親が率先してエスカレーターやエレベーターを使えば、子どもも親の背中を追ってエスカレーターやエレベーターを使うようになっちゃいます。でも、親が率先して階段を使えば、子どもたちも率先して階段を使うようになるから、ここで運動量に差が生まれるんです。

そういう意味では、スポーツをやっていても運動不足の子っているんですよ。
例えば、地方在住の子どもたちって、練習場まで親に車で送り迎えをしてもらっている子がほとんどなんですよね。つまり、練習場を往復する間は運動不足になっているんです。でも、自転車で往復するのであれば、それは立派な運動になります。

スポーツを習っていても、運動する習慣が身に付いていない子どもは、運動習慣を身に着けている子どもと比べて、将来的に運動不足になる可能性は高いと思います。なので、まずは運動とスポーツは別物であるということを理解してもらえるとわかりやすいかなと思います。

運動できる子どもは“生きるチカラ”が増す

口腔内のトラブルには、あまりものを噛んでいない、舌を動かしていない、という問題もあると思います。

口を動かすというのは“表情筋を動かす”ということでもありますが、今は子どもたちも大きな声を出さなくなっているじゃないですか。公園でも「大きな声を出して遊んではいけない」っていう注意事項があるくらいですから。僕は「学校や公園で声を出さないで、いつ出すんだ!」って思うけどなぁ。

普段から声を出している子どもは、いざ身に危険が迫ったときに、咄嗟に「助けてください!」って言えるんですよ。でも、普段から声を出していない子どもは、危険を感じると内側にこもっちゃうんですね。

鬼ごっこも一緒で、普段から鬼ごっこに慣れている子どもは、何か危ないことがあったときにすぐ逃げられます。イタズラっ子というのも、何かあるとすぐ逃げていくじゃないですか。バランスが悪いところを歩いたり、壁をよじ登ったり、穴に入ったりして。どれも大人になると絶対にやりたがらない行動ですよね。

でも、そうやって普段から体を動かしている子どもは、生きるチカラが増すんですよ。大人から見るとただの子どものおふざけに見えるかもしれませんが、やっぱり運動量は多いほうがいいし、大人がそう導いてあげないといけません

子どもにゲームやスマホを与えているのも親!

あと、スクリーンタイムも問題になっていますよね。ゲームやスマホ、タブレットで遊ぶ子どもが増えていて、公園でも4〜5人の子どもたちが座ったまま指先だけを動かしている光景を目にするじゃないですか。

これでは運動不足になるばかりだけど、ゲームやスマホを与えているのも親ですからね。ちゃんと普段の生活習慣の中で、「この時間はゲームしてもいいよ」「でも、これが終わったらまた明日にしようね」と、スクリーンタイムを明確にルール化しないと、子どもの運動量は確保できないでしょう。

運動不足の子どもは確実に増えています。だからこそ、大人が運動指導をしていく必要があります。私としては、まずはみなさんが生活の中に「+1(プラスワン)」を持つようにしてほしいと思っています。

例えば、ただ歩くだけでも、いつもより腕を大きく振る、いつもより歩幅を広く取る、いつもよりちょっと早く歩く、いつもよりちょっと長く歩く……といったふうに、「+1」を取り入れることで、確実に運動不足の解消に繋がります

子どもと家でできる「親子体操」がおすすめ!

「体を動かすことが嫌いな子も楽しいと思えるチャンスを増やす方法」についてですが、僕は親子で一緒に体を動かす「親子体操」をおすすめしています。親子で抱っこしたり、おんぶしたり、子どもを足の上に乗せたり、肩車したりと、親子で触れ合うことで、お互いが運動になるんですよ。

例えば、子どもが「パパこれやって!」「もう一回、もう一回!」ってせがんでも、大人はすぐに疲れて「またあとで」ってやめちゃうじゃないですか。でも、子どもは同じ動きを繰り返し反復していくことで動きが巧みになり、運動神経もよくなっていくんです。

逆に言うと、子どもがまだ運動したがっているのに、「またあとで」と止めた瞬間、運動能力が向上する機会をストップさせてしまう。でも、親が一緒に動いていれば、子どもの運動能力は向上していきます。

しかも、親子で一緒に触れ合って遊ぶことで、親の子育てのストレスが減ったり、睡眠の質が向上したりするなど、親側の心のメンタルヘルスにも良い効果があるんですよね。親子体操は家の中でできるし、お金もかからないので、ぜひ周囲にもすすめてみてください!

相談②「昔から面接が大の苦手で、就活ができません」

すのごんちゃんさん(20代 女性)
私は今大学4年生なのですが、就活をしたくなくて大学院に進むことにしました。しかし、来年度からは本格的に就活を始めなくてはいけなく、考えただけでもとてもつらいです。
行きたい業種は決まっていますが、昔から面接が大の苦手で、就職したくてもできない気がしてきてしまいます。
どうすれば面接が得意になるか、あるいは就活に対して重く考えないようにする方法が知りたいです。

まずは大学院での生活に集中を!

大学院に進学するっていうのは、誰にでもできることじゃありません。僕も社会人になってから大学院に行ったけど、本当に行ってよかったと思ってます。だからこそ、今はまず大学院で生活することに集中してほしいなって思います。僕の経験上ね。

就活のこともあるんでしょうけど、せっかく勉強ができるんだから、今はあまり考えないほうがいいと思います。まずは現状をしっかり楽しむこと。そして、仲間を作ること。横の繋がりもそうだし、先輩や後輩、先生など、縦の繋がりを作ることで、心を豊かにしてほしいと思います。親友と呼べるような人は少数でいいと思いますけどね。

ひとまずは、そんな感じでいいんじゃないかな?

絶対に落ちたと思った一次オーディション

僕にとっての就活は、『おかあさんといっしょ』のオーディションでした。それまでオーディションというものを受けたことがなかったので、一次オーディションにはリクルートスーツを着ていったんですけど、控室に入ったら他の参加者全員が私服だったんです。

あのときは、「ヤバい! 俺だけ場違いだ!」って焦りましたねぇ。僕だけネクタイを締めて、NHK職員の採用試験にやってきた人間みたいになっていましたから(笑)。

そのあと、服を着替えて、オーディション会場に移動して、審査員たちの目の前で体操の振り付けや手遊び歌をやっていくんですけど、僕以外の参加者はみんなめちゃくちゃ上手かったんですよ。

そもそも、目の前に子どもたちがいるつもりで演技なんて、普通できないんですよ。審査員なんて全員オジサンですから。それを子どもだと思いこむなんて無理です(笑)。でも、他のみんなはしっかり体操のお兄さんを演じているし、質問の受け答えもハキハキしていて、すごく上手でした。

どうやら、僕の先代の体操のお兄さんがもともと劇団出身の人だったので、オーディション会場にいる人たちも劇団所属の役者さんたちが多かったみたいですね。だから、オジサンたちの前でも体操のお兄さん役に徹することができたんです。

僕はそれまで中高齢の方を対象にした運動指導くらいしか経験したことがなくて、幼児指導はしたことがなかったんです。もちろん演技もできませんし、面接でも僕だけがチンプンカンプンなことを言っていて、帰り道は「あ〜、疲れた〜」「絶対に落ちたな〜」って開き直っていました(笑)

学生のうちから完璧な面接なんて無理!

でも、僕が面接官なら、あまりに完璧な学生が来たらちょっとびっくりしちゃいますけどね。その人の真面目な部分が見たい面接官もいれば、不真面目な部分が見たい面接官もいると思うから、とにかく面接では、自分の素をさらけ出すことが大事なんじゃないでしょうか。

すでに行きたい業種が決まっているというだけでもプラスだし、そもそも面接で100%を出し切れる人なんていないので、あまり重く考えすぎないほうがいいと思います。

僕は大学で授業をしている身なので、保育士や幼稚園の先生になろうとしている学生たちと接する機会があります。そこで僕は、学生たちにこう言っているんです。

「他の教授からは、『ちゃんと先生として教育実習の現場に行きなさい』って言われるよね。でも、現場の先生たちは、君たちに指導力なんて望んでいないよ。なぜなら、現場の先生たちは、まだ君たちに指導力がないことは知っているから。

君たちが教育実習の現場に行くときは、挨拶だけはしっかりして、あとは若さと元気だけがあればいい。指導力は現場で子どもたちに教わりなさい。子どもに教えようとするから負担になる。子どもたちから学ぶ姿勢を持っていれば、自然と指導力も身につくんだよ」

指導者として完璧になれるのは、何年先かわかりません。ましてや学生のうちから完璧なんて無理ですよ。だから、すのごんちゃんさんも完璧な面接をしようなんて考えなくて大丈夫です!

「失敗してもいいや」の気持ちで、肩の荷を降ろして

もしかしたら、すのごんちゃんさんは「この会社に行けなかったらもうダメ」と思い込んでしまっているかもしれないけど、会社は他にもいっぱいあるし、その中には必ず自分に合った会社もたくさんあると思います。

だから、面接で失敗してもいいんじゃないかな。失敗したって、命までとられるわけじゃないんだから、失敗してから考えればいいと思うなぁ。とにかく成功するイメージだけは抱いておいて、それで失敗したのなら、それはもうしょうがないから。

失敗することで、失敗した原因がわかるかもしれないし、そうすれば次は成功する確率も高まるじゃないですか。なんでもそうだけど、やはり経験と体験が大事だと思います。僕はなんとか一次オーディションに受かって、二次オーディションに進んだけど、このときも「ああ、絶対落ちたな」って思いましたよ。

オーディションの内容は一次と同じなんだけど、二次ではカメラの前で体操と手遊び歌と一発芸をするんです。ちなみに、僕は一発芸でタンブリングっていうアクションを披露しました。

相変わらず、他の参加者はいかにも“体操のお兄さん”って感じの爽やかな演技をしていたし、面接でもしっかりアピールできていました。一方の僕は体育会系のノリしかわからないので、空元気を振りまきながら大きな声で「ありがとうございます!」って言ってるだけ(笑)

案の定、帰り道は「いや〜、すげぇなテレビって」「今度こそ落ちたな〜」って思いながらトボトボ帰りました。実家がやきとり屋だったので、「早く帰って、母ちゃんの串刺しの手伝いしなきゃな〜」って考えながら。
後日「合格です」っていう電話をもらったときは、思わず「えっ?」って聞き返しちゃいましたもん。ちなみに、なんで合格したのかは未だにわかっていません。

僕はたまたま上手くいきましたが、失敗もたくさんしてきているし、すのごんちゃんさんも少し肩の荷を降ろして面接に臨んでみてはいかがでしょう?