「自分が醜く思える」という相談に「スーパーモデルも、トイレ中までキラキラしているわけじゃない」と助言。西村宏堂さんが語る“ルッキズムの克服方法”<木曜日の相談室 vol.31>
目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」。
今回のゲストは、メイクアップーティストで僧侶の西村宏堂さん。「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、西村さんに話をお聞きしました。
西村宏堂 プロフィール
相談①「メイクが上手になる方法を教えてください」
メイクの上達に必要な“3つのプロセス”
まずは美優さん、ご相談いただきありがとうございます。
これはメイクに限ったことではありませんが、何か技術を上達させたいなら、①質の良いものに触れる、②自分で真似してみる、③反省する、という作業を繰り返し行う必要があると思うんです。私もアシスタント時代は、ずっとこれを繰り返していました。
美術なら美術館、音楽なら音楽会といったように、まずは自分がアクセスできる範囲で、特にクオリティが高いものを体感してみるんです。そこで本物に触れて、自分でも真似してみて、その後は仲間や先生に見てもらってアドバイスを仰ぐ。これが一般的な物事の上達の流れだと思います。
ただ練習しているだけでは上手くなりません。毎日自炊していても、シェフになれないのと一緒です。なので、まずはお手本にできるものを探しましょう。
今はYouTubeにも参考になる動画がいっぱいあるので、そこで自分に似た条件を持つ人のメイク方法やブラシの持ち方、色使いなどを学んでみるのもいいと思います。誰か上手な人のメイクを模倣して見比べてみたり、デッサンしてみたりすることで、「あっ、意外と見えていないところがあったんだな」といった発見もあるはずです。
友達に写真を送って、「このメイク、どう思う?」って聞いてみるのもおすすめですね。「もうちょっと眉毛は太くてもよかったんじゃないか」「もっとチークを乗せたほうがいいんじゃないか」といったように、自分では気付けなかった部分に気付いてくれるかもしれません。
無理に憧れに近づくより、自分らしいメイクを追求すること
自分に合ったメイクを見つけることも大切です。無理になれないものになろうとすると、嘘に嘘を重ねてイタい感じになっちゃったりしますから。やはり自分に似た顔の人のメイクを参考にしたり、「これなら自分にも似合うだろうな」っていうメイクを取り入れたりしたほうが自分の良さが引き立つはずです。
私は18歳でアメリカに留学したのですが、語学学校の同級生にモデルをやっているイタリア人女性がいました。ショートカットがよく似合う目の大きな女性で、彼女に憧れて「もっと私も目が大きくなったらいいな」とも思ったのですが、そもそも体型からして全然違うので、真似しようにもできないんです。
そこで、「だったら私は着物を着たほうがいいかもしれない」「和風の香水を選んでみようかな」「私は髪の毛が硬いから、剃ってみたらどうだろう」と、自分らしさを追求することにしました。自分に似合うスタイルを探した結果、より一層幸せになれたと感じています。
今はいろいろな方法で顔の形も変えられます。それが好みなら、思う存分やってみるといいかもしれません。ただし、あまり顔の形を変えすぎてしまうと返って悪目立ちしてしまう場合もあります。そうなると本末転倒ですから、自分がちゃんと納得できるポイントを探せるといいと思います。
トランスジェンダー女性がメイクする際に注意したいポイント
最後に、トランスジェンダー女性がメイクする場合の技術的な話もお伝えさせていただきたいと思います。
まず、トランスジェンダー女性は口の周りに“影”ができがちです。もし口周りをレーザー治療などで脱毛していない場合、どうしても青っぽくなってしまうので、オレンジ色のコンシーラーを使ってみてください。オレンジは青の反対色なので、オレンジを乗せることで影が緩和されます。ファンデーションに赤いリップを混ぜるとオレンジっぽくなるので、それを口の周りに伸ばしてみてください。
以下はみなさんに向けてのメイクの論理のアドバイスです。
顔のパーツについて言うと、眉毛や目、リップが大きくなると、顔全体が小さく見える効果が生まれます。少し長めに眉やアイライナーを描くと顔全体が柔らかい印象にもなります。眉毛は太くて濃ければ勇ましい印象を与えますし、薄くて丸く細ければ柔らかい印象になります。
メイクを乗せれば乗せるほどいいというわけではないので、個人の良さが消えないくらいの量にしておくのも大事なポイントです。
みなさんにおすすめしたいのですが、メイクをする前にシートマスクで10分ほど保湿してからメイクをすれば、皮脂が出づらくなり、内側から輝いて見えるようになります。ファンデーションはブラシやスポンジよりも、指を使って塗ると厚くなりすぎません。指の上で薄く伸ばしておいて、必要な量だけ肌に乗せるようにしてみてください。
ファンデーションの色を選ぶときは、自分の本当の肌の色と同じような色を選ぶのが基本です。例えば顔だけ明るくて首の色が暗いと、不自然になってしまうからです。まず一度、首の下の鎖骨あたりにファンデーションを乗せてみましょう。そこで色がピタッと合っていれば、首が開いている洋服を着たときも自然な感じになるのでおすすめです。メイクは左右対称に見えることも大切なので、視点を変えながら何度も左右を見比べて、ズレがないよう注意しましょう。周りの人のアドバイスを仰ぎながら、ぜひ頑張ってみてくださいね。
相談②「好きな人ができると自分が醜く思える。私なんか誰も選んでくれないと思うとしんどいです」
トラウマを克服するには、まずはトリガーを突き止めよう
タマゴサンドさんは、誰かと比べられて「可愛くないね」とか、「美しくないね」なんて言われたことがトラウマになったりしていませんか?
もしそういう経験があるのであれば、当時の状況を思い出して、「あの人はどういう気持ちでそんなことを言ったのか」「今の自分ならなんて言い返すか」と考えてみてください。そうすることで、自分の潜在的な価値観を見直してみることがまずは大事かと思います。
私は7歳くらいのとき、女の子たちと一緒にお人形遊びをしていたら、「西ちゃんは男の子だからダメ」と言われ、部屋から追い出された経験があります。今でも「あのときは嫌だったな」と覚えています。
タマゴサンドさんにも、何かこういったトリガーとなる幼少期の嫌な思い出があるなら、「あのときにこう言われたから、今もそれでアレルギー反応が起きているんだな」と心の中で整理すればいいと思います。当時はとてもショックだったと思いますが、今の年齢で改めて考えてみたら、どこかで折り合いがつけられるかもしれませんし、そうすれば気持ちも少しは楽になると思います。
スーパーモデルだっていつもキラキラしているわけじゃない
ルッキズムに関して言えば、すごく綺麗でキラキラして見える人でも、絶対にキラキラしていない瞬間があることを忘れないでください。
確かにスーパーモデルは綺麗な人ばかりです。でも、例えばトイレに行くときや、嫌なことがあって疲れて帰ってきてお風呂に入るときまでキラキラしている人なんていません。今の美貌だって、数十年後もそのままというわけではない可能性もあります。
自分が醜く見えるというのは、割と当たり前のことだと思います。では、自分の醜さに耐えられないからといって、例えば大便が臭くならないよう食事まで徹底して制限しますか? 私は、それは違うと思いますし、むしろ、トイレでまでキラキラしている人なんていないと考えれば、気持ちに余裕も生まれるのではないでしょうか。
私も以前はルッキズムに囚われていました。自分に自信が持てず、トレーニングに通ったり、ニキビ跡を消したりして、「全てを完璧にしないと愛される価値がない」と思い込んでいた時期もありました。でも、それだと自分が辛いだけですし、そうやって背伸びしてできたパートナーと一緒にいることも辛くなるんじゃないかと思うようになりました。
その結果、人を見る目も変わりましたね。例えば、大変なときでも頑張ろうという心がある人かどうか、進んで他人のために何かする気持ちを持っている人かどうか、自分が自分らしくいても楽しく付き合える人かどうか、といった見方にシフトしていったんです。
そうしているうちに、自分の見た目ではなく、自分の心のありようなら自信を持てる部分もあることに気づけたので、それを大事にしてくれる人と一緒になれればいいなと思うようになりました。ぜひ、タマゴサンドさんも“美しさ”に対する視点を変えてみてはいかがでしょうか?
視点を変えれば、“美しくない部分”まで愛せるようになる
「自分自身の醜さに耐えられなくなってしまいます」とのことですが、見た目は一生かかっても完璧にはならないので、それは乗り越えないといけない悩みかなって思います。
むしろ、美しいとされていないところも美しく感じられるようになるといいのではないでしょうか?
悲しいストーリーの人気映画は、その切なさや辛さまで含めて美しく感じられるから人気になっているわけですよね。
ですから、例えば楽しい時間を過ごすためにアイスクリームを2つ食べて、結果として後悔したとしても、それは過ごした時間が楽しかったという事実のほうに目を向けるべきだと思います。辛いことがあってチョコレートを食べた結果、ニキビができちゃったとしても、それが自分が耐え忍ぶためにとった行動です。
視点を変えることで、醜いと思っていたところも美しく捉えることはできます。どうか、過ごした時間の美しさに胸を張りましょう。
一度恋愛を諦めて、肩の力を抜いた先に運命の出会いが
「私なんか誰も選んでくれないよなーっていう思いがずっと根底にあって、しんどいです」とのことですが、私もその気持ちはよくわかります。
私は、自分で結婚指輪を買いに行ったことがあったんですよ。「もういいや、ひとりで。誰かに頼るのはやめた!」っていうことで。ひとりで好きなときに旅行に行って、自由に時間を使ってやりたいことをして生きていこうと決断しました。そうやって吹っ切れてしばらくしてから、今のパートナーに出会ったんです。
今のパートナーとは、バルセロナの旅行中に出会いました。彼もコロンビアから旅行に来ていて、たまたま夜に入ったバルで近くの席に座ったんです。それで話してみたら、私はLGBTQの活動をしていますが、彼も子どもたちの支援や薬物の注意喚起、投票の重要性などの啓発活動をしていることがわかって、すごく感覚が近かったんですね。今までにない、運命的なものを感じました。
今は結婚して、一緒のアパートに住んでいますが、彼の前ではあまり見た目どうこうは気にしていなくて、髪がボサボサで肌荒れがひどくてオナラをしようが、そういう次元ではない感じなんですよ。
自分で自分に結婚指輪を買うまでは、「こうしなきゃダメ」「ああしなきゃダメ」と張り詰めているところがあったのですが、今思えば、それが逆効果だったんだと思います。誰も選んでくれないなら、一度諦めてしまうのもひとつの手ですし、私のように、その先に予期せぬ出会いが待っているかもしれません。
いろんなことを言わせていただきましたが、共通して言えるのは、やはり今の“視点”を変えてみることで、何かが好転するかもしれないということですね。