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「他人は関係ない。自分が満足できるかどうかです」つい周りと比較してしまうあなたへ藤井猛九段がアドバイス<木曜日の相談室 vol.10>

株式会社マイナビ

目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」

第5回目のゲストは前回に続き、竜王三連覇を達成したトップ棋士、藤井猛九段。今回は「わたしがいま、かかえている悩み」をテーマに相談を募集し、藤井さんにお話をお聞きしました。

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藤井猛九段 プロフィール
1970年9月29日生まれ。将棋プロ棋士。段位は九段。独自に開発した振り飛車の戦い方で数々の輝かしい記録を残しており、「振り飛車党総帥」として将棋棋士の中でもカリスマ的な人気を誇る。「藤井システム」と呼ばれる画期的な戦法を編み出し、それを武器に1998年に「竜王」のタイトルを獲得。羽生善治九段らの挑戦をはねのけ、竜王3連覇という偉業を達成。その後も「藤井矢倉」「角交換四間飛車」という独創的な戦法を生み出し、トップ棋士として活躍。タイトル戦登場は7回、棋戦優勝は8回。

相談④:自分への自信がどんどんなくなってきてしまいました

ペンネーム:夕凪さん(23歳)
私は今年の3月に大学を卒業し、4月から社会人になりました。
働いて半年以上が経ちましたが、最近、自分への自信がどんどん無くなってきてしまいました。元々自信や自己肯定感が低いほうではあるのですが……。
「仕事がうまくできない」「上司とうまくコミュニケーションがとれていない」といった自覚をし始めたら、そこからはもう悪循環です。
自分は人より何もうまくできない→こんな自分のことを周りの人はバカにしているに違いない→きっと自分をバカにしているだろう人たちと話すのが怖い→コミュニケーションすらうまく取れない自分はもうダメだ……と言った具合に、どんどん自信を無くして殻に閉じこもり、ますます仕事がうまくいきません。藤井先生は、自分の読みに自信が持てなくなったことなどはありますか? 負けが続いたときなどは、どのようにメンタルを立て直していますか。

20代前半は毎日のように「ダメだ、俺……」と思っていた

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私の息子も夕凪さんと同級生で、社会人一年目です。そして同じく、息子も最近は自信をなくしているみたいです。営業の仕事をやっているのですが、バンバン契約をとってくる同期がいるので、どうしても比べちゃうみたいなんです。でも、大体の新社会人は自信なんてないのが普通だと思いますよ。

将棋の世界は勝敗で評価されます。私は1年目から高勝率を上げていたので、棋士としては1年目から自信を持っていました。反面、将棋以外の部分では落ち込むことばかりでした。私はひたすら将棋の修行だけをしてきた人間ですから、「将棋が強い」ということ以外は何もないんです。

修行中はそれでもいいんです。でも、棋士としてデビューしたら、社会人としての振る舞いが求められるんです。なので、将棋を指していないときはめちゃくちゃキツい。将棋連盟には社会人研修もありません。挨拶の仕方も教えてくれないので、自分でちゃんと学ばないと挨拶すらできません。コミュニケーション能力もゼロなので、人と会うたびに胃が痛くなりました。だから、20代の前半は、毎日のように「ダメだ、俺……」って思っていましたね。

僕は20歳で四段になったのですが、当時の地元の友人たちはみんな東京で大学生になっていて、2年の間にずいぶん洗練されていたんですよ。でも、私は田舎もの丸出しで、大学生のノリにはついていけなくてバカにされて。恥ずかしかったし、ずいぶん落ち込みましたね。今は違うでしょうけど、当時、バブルの時代はそういう空気がありました。

ひとりでも褒めてくれる人がいれば気は楽になる

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そういうときに、嘘でもいいから褒めてくれる人がいるかどうかは大きいと思います。私は、当時付き合っていた彼女と結婚しましたが、彼女が褒めてくれたんですよ。ダメなところじゃなくて、いいところを見よう、って。ひとりでも褒めてくれる人がいると気が楽になります。それは彼女や彼氏ではなく、友達でも親でも誰でもいいんです。

私が自信を持てたのは、結局30歳を過ぎてからですね。ありがたいことに、今では解説なども好評なんですが、昔の自分からは想像がつきません。タイトルを獲ってトップ棋士になると人前に出ることも増えるし、そこでちょっと笑いが起こると自信がつくんですよ。「おっ、ウケたぞ!」って。そうやって、ちょっとずつの積み重ねが自信になっていきました。

ちょうどネットでの書き込みが注目され始めた頃、私は30代だったのですが、結構ネットで馬鹿にされていたんですよ。ちょうど羽生さんにタイトルを奪われた頃で。やっぱり羽生さんの人気は絶大で、私は羽生さんにやられるヒール役。僕が負けると喜ぶ人が多かったんです。ネットでもボロクソに書かれましたが、あれはキツイですよ。「こんなこと言わなくても……」って落ち込みました(笑)。

でも、そんななかでも応援してくれる人はいて、私にとってはその声のほうが大きかった。悪口を言う人がいれば、応援してくれる人も絶対にいるということもわかりました。
夕凪さんも、自分のダメなところを探すのではなく、自分のいいところを褒めてくれる人、応援してくれる人の声を大切にして下さい。

相談⑤:自分を保つ秘訣・周りと違うことをおそれない秘訣は?

ペンネーム:うさぎさん(42歳)
こんにちは。私は今、大学受験予備校で英語を教えています。
生徒さんを見ていると、自分と周りを比べて、よく考えずに「みんながやっていること」をやってしまう生徒さんも多いです。
今いる場所も、目的地も、一人一人違うのに、みんな、知識武装をしようとしてしまいます。
 「知識武装をするなら、基礎体力ができてからでないと、せっかく覚えた知識も使えないよ」と伝えると、結果を出してくれる生徒さんも多いのですが、時間はかかりますし、また、最終的に結果を出してくれる生徒さんであっても、それまでの間、やはり不安に思ってしまうのか、どうしても知識武装の発想になってしまうことも多いです。
また、私も40代になり、収入面などで周りとだいぶ差がついているな、みんながやっていることが正解だったのかな、と感じることもあります。
父親が商社マンで、就職するならそれより上はあまりないような感じだったのですが、それだけに、同じ道を歩むのはどうしてもピンとこず、それ以外を色々とやってきてはいるものの、自分が正解を選べているとは思えないことも増えてきました。
藤井九段は、ご自身が奨励会の頃に羽生九段が活躍されていたり、40歳を超えられた頃にお手持ちの書籍をほとんど処分されて、新しい戦法を考案したり、銀河戦で優勝されたと聞きました。
そこで藤井九段にお聞きしたいのが、「自分を保つ秘訣」「周りと違うことをおそれない秘訣」です。どうやって自分を保って、結果を残されたのでしょうか。自分と周りを比べて焦ったり、みんなの真似をしたほうがいいのかなと思ったことはありませんでしたか。受験生と私の両方に向けて、よろしくお願いします。

竜王を獲ったときの自分はすごく浅かった

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「知識をどんどん詰め込んでテストで良い点を取るより、遠回りでも基礎体力をつけないとダメ」――という点は、将棋でも似たようなことが言えます。効率を重視して結果を求めるか、それとも遠回りしてでも地力をつけるか。ただ、知識を詰め込むことも結局は必要で、要はバランスの問題なんですよね。

振り返ってみると、私もタイトルを獲るまでは浅い知識の積み重ねだったような気がします。少なくとも、竜王を獲ったときの自分はすごく浅かったし、じっくり時間をかけて強くなるより、効率を重視していた可能性が高かったと思います。それがうまくいって竜王という地位に就いたものの、実力が伴わず中身は薄かったので、そのあとで苦労しました。だから、人のことは言えないんです(笑)

やっぱり最終的に、やることはやらないといけません。だから、私はタイトルを失ったあとに時間をかけて勉強し直しました。結果、総合的な実力はついたと思います。

でも、将棋の場合は、自分の実力をつける時間がちゃんと与えられていますが、受験生は違いますよね。本当は基礎体力をつけたほうがいいのでしょうけど、社会がそういうシステムになっていないので、どうしても効率を求めた勉強方法になってしまうのかもしれません。

将棋の世界でも今はコンピュータが出てきて、これがなかなかやっかいなんです。便利なもので、昔は10年、20年という月日をかけて初めて習得できた技術を、10代の少年でも身に付けることができるんです。ただし、これに伴う副作用があるかどうか、今はまだわかりません。

私は古い世代なので、コンピュータで効率化した将棋に拒否感を覚えるし、否定的な見方をしています。でも結局、「効率化と遠回り、どっちが正解か」という話になってくるので、なんとも言えません。それでも、「コンピュータに頼るな」と言い続ける人がいることは大事だし、私は古い世代の人間として、これからも言い続けていこうと思っています(笑)。

一度、周りの真似をしてみてもいい。なぜなら……

「自分を保つ秘訣」「周りと違うことを恐れない秘訣」についてですが、私は35歳のときに行き詰まって、自分のやり方をリセットした時期があるんですよ。みんながやっている「居飛車」というポピュラーな指し方を自分なりに勉強して、足りていないものを補おうとしたんです。

35歳を過ぎて、恥ずかしげもなくまっさらな気持ちになって頑張りました。私にとっては、どうしてもその作業が必要だったので。

でも、居飛車をやろうとしてみても、結局は自分の色というのが出てくるんですよ。真似しようとしてみても、絶対に個性的なものになっちゃうんです。いわゆる少数派なタイプは、結局個性が出てきてしまうんですね。

でも、おかげでオリジナリティのある居飛車を開発できたし、新しい将棋を取り入れて活躍することもできました。形としては一般的な戦法を受け入れているように見えたと思いますが、結果的にそうはならなかったんです。

なので、一度周りの真似をしてみてもいいんじゃないですか?きっと自分の色が出てくると思いますし、その結果、また新たなオリジナリティが生まれるかもしれません。やるだけやってみて、収入アップを目指してみてはどうでしょう。

他人は関係ない。大切なのは、自分が満足しているかどうか

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「自分と周りを比べて焦ったりしたことはないか」ということですが、これも自分はどこで満足するのか、という話なんです。

羽生さんは年間60勝くらいしていましたが、これを基準にしたら、自分も60勝しなければ満足できないという話になっちゃうじゃないですか。僕は当時、年間30勝くらいでしたが、これもめちゃくちゃ立派な数字だし、めちゃくちゃ満足しました。

羽生さんがすごい活躍していても全然気にしないのは、自分が満足できる成績を残していたからなんです。もしかしたら、「羽生さんは60勝しているのにお前は30勝なのか」っていう人がいるかもしれません。でも、他人がどう思おうが関係ないんです。羽生さんが何勝しようが関係ない。自分はめちゃくちゃ喜んでいるわけなので、そこで比べるなんて無意味なんですよ。

私が将棋を習い始めたのは中学2年生のときです。中学2年生なんて、藤井聡太くんはもうプロになっていた年齢だし、羽生さんもプロの扉を叩こうとしていたときですよ。でも、30歳のときの竜王戦で、私は羽生さんに勝っています。

もし、将棋界の扉をノックし始めた頃の自分がタイムマシンで30歳の自分を見たら、ビックリしますよ。「え、羽生さんに俺勝ってるの!? この15年で何があったの!?」って。なので、そういうことは本当に起こり得るんですよ。他人から見て、目標が低くても関係ありません。自分が満足して、努力を続けていれば追いつけます。
うさぎさんも、自分だけの物差しを持って、それを大事にして下さい。

みんなにも読んでほしいですか?

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