サービス廃止の危機から急成長!『トラベルナース』が医療現場に必要とされる理由
医師や看護師といった医療人材は、地方を中心に慢性的な不足状態にあります。
その問題がより顕在化したのが、新型コロナウイルスの流行でした。
病床は重症患者で埋まり、現場の看護師たちは連日の激務で疲弊。退職者も後を絶たない状況が続いていました。
そんな緊急事態の中、少しでも早く看護師を採用したい医療機関と、現場の助けになりたいという看護師の橋渡し役として急成長したのが『トラベルナース』というサービスです。
実はこの『トラベルナース』、2019年8月発足当初はなかなか注目されず、一時はサービスの存続自体が危ぶまれた時期もあったほど。
しかし、そこから急成長し、この2年で看護師のご登録が約3倍という驚異的なペースで伸長を遂げたのです。
このサービスが医療の現場から必要とされ、急成長を遂げた理由とは?
『トラベルナース』を牽引してきた2人にインタビューしました。
プロフィール
なぜ、『トラベルナース』は期間限定雇用?
――『トラベルナース』とはどのようなサービスなのでしょうか?
酒井 貴文(以下、酒井):『トラベルナース』は、医療機関が期間限定で看護師を直接雇用できるサービスです。
看護師は女性が大半を占めるため、産休による人員の離脱が頻繁に起こります。そのため、産休代替要員や、繁忙期のヘルプ要員が必要な際にご利用いただくことが多いです。
看護師との契約期間は最長6カ月ですが、看護師と医療機関の合意があれば延長や正社員への切り替えも可能です。
平野 裕也(以下、平野):面接を希される看護師で多いのは、期間限定で地域医療や都市部の医療、コロナ病棟での経験を積みたいという方。
また、長期就業が難しいという方に多くご利用いただいています。 配偶者の転勤が決まっていたり、留学に行くことが決まっている場合など、ぽっかりと空いてしまう期間だけ働きたいというニーズがあったり将来を見越し短期間で違うキャリアを経験したいという要望も増加しています。
こうした、家庭の事情や看護師ならではのキャリア形成があるからこそ、生まれたサービスとも言えますね。
――現在は急成長中の『トラベルナース』ですが、発足当初は伸び悩んでいたと聞きました。
酒井:私が看護師採用支援領域の責任者に着任した2020年4月、まず問われたのがトラベルナースを継続するかどうかでした。それだけこのサービスは厳しい状況にあったんです。
その理由のひとつが、医療機関は「命の現場」であるという点です。
最近はSNS等により、看護師のさまざまな働き方が知られるにつれ、柔軟なキャリア形成が認められつつあります。しかし、そうはいっても看護師は人の命を預かる仕事。自己犠牲的な精神がまだまだ強く、期間限定でそんな責任の重い仕事が務まるのか、といった見方をされるケースもありました。
平野:また、『トラベルナース』は期間限定雇用のため、一から求人票を作らなければなりません。
他のサービスを十分ご利用いただいている中で、手間もかかり、医療現場からの期待も高くなかった『トラベルナース』をわざわざ提案することに、営業メンバーは皆、後ろ向きだったように感じます。
サービス急成長のカギは「成功体験の共有」
酒井:しかしマーケット調査によると、看護師の期間限定雇用自体にはニーズがあることがわかっていたため、すぐにサービスを廃止するのはもったいないと思っていました。
そこでまずは、売上状況と成約事例を調べることに。
その中で、当時『トラベルナース』の売上の約80%が一つのチームに偏っていたことに注目しました。
そのチームを率いていたのが、平野さんでした。
平野:僕の管轄していたエリア内に、過疎地であるが故に、看護師の常勤雇用が難しい医療機関があったんです。そこに『トラベルナース』をご提案したところ、数十人規模で採用いただけたことがありました。この成功体験を現場で共有し営業活動を広げていくことで、徐々に成功事例が増えていった感覚を覚えています。
酒井:これをきっかけに、平野さんには『トラベルナース』の旗振り役になってもらい、各支社にもリーダーを立てました。
また、成約した営業メンバーにその事例を全国の会議で発表してもらうなど、社内で成功体験を共有してもらったんです。
すると、成約件数がじわじわと増加。「これは看護師の就業支援に必要とされるサービスなんだ」という認知が、営業メンバーのなかでも広がっていきました。
平野:また、このマーケットをより理解するために、私も酒井さんも改めて勉強するべく、この事業の最大手の企業の方からお話を伺いました。
短期就業の支援ではマイナビは新参者なので、勉強させていただく姿勢でご挨拶に伺いました。お互い競合他社という関係ではありますが、情報交換の機会を頂けたのは貴重でしたね。
まだまだ眠る潜在ニーズ
――看護師の皆さまの間でも、この働き方は知られているのでしょうか?
酒井:トラベルナースで採用が決定した求職者のうち、もともとは通常長期就業を支援する『マイナビ看護師』のみに登録されていた方が半分以上です。
なかなか希望にマッチする求人に出会えない方に対し、「希望の求人が出てくるまで、期間限定で働く方法もありますよ」といった形でトラベルナースをご提案する形で、成約するケースも多いですね。
また、勤務先が遠方の場合、「初めての土地でうまくやっていけるか不安」という方もいらっしゃいます。
そういった方には「まずはトラベルナースで期間を決めて働いてみて、それから正社員になるかどうか考えてみては?」というご提案をすることで、うまくいくことがあります。
つまり、潜在的なニーズがある一方で、この期間限定の働き方を知らない方がまだまだ多いということ。もっと認知を拡げていく必要があると感じています。
平野:認知拡大施策のひとつとして、他社の看護師留学セミナーにお伺いし、そこでトラベルナースをご紹介するという取り組みも行っています。この施策を通して、累計で数百名の看護師の皆さまにトラベルナースを知っていただき、ご登録いただくことができました。
今後もこうした機会は積極的に設けていきたいですね。
酒井:こうした地道な認知拡大施策や医療機関様へのご提案を通して、求人掲載数は2年で約3倍、売上は2年で約14倍という数字を達成することができました。来期は更なる成長を見込んでいます。
看護師と医療機関、win-winの関係を
――急成長中のトラベルナース、今後にも期待したいですね。この先の展望について教えてください。
平野:僕自身の肌感覚ではありますが、若い方を中心に、看護師さんもプライベートと両立させた働き方をしたいという方が増えてきています。そして、それに応える形で医療機関側も徐々に意識が変わってきつつあるように感じています。
当たり前ですが、医療現場を担う方であっても、一人の人間としてのライフキャリアの充実を追求していいんだという考え方がようやく浸透しつつあります。
トラベルナースが、看護師の多様な働き方を拡げていく一助になれればいいですね。
酒井:昨今、医療人材不足が深刻化するなかで「潜在看護師」が注目されています。資格を持っていながら、現在は看護師として働いていない方のことで、看護師全体の約30%、全国に70万人以上もいると推定されているんです。
この潜在看護師の復職をどう促すかが課題になっています。
特に配偶者の転勤などで退職せざるを得なかった方などは、転勤先で改めて正社員になるのは難しい方も多いと思います。
そういった方にトラベルナースをご利用いただくことで、こうした社会問題の解決にも貢献できるかもしれません。
平野:そういった意味では、医療機関は人材不足の解消を、看護師はフレキシブルな働き方を実現できるというwin-winの関係が構築できるといえますね。
トラベルナースをもっと広めることで、医療現場にポジティブな変化を起こしていけるよう、これからも挑戦を続けていきたいです。