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「ずっと上がり続けるなんて、世界のトップアスリートでも無理です」カヌーメダリスト羽根田卓也に聞く“モチベーションの保ち方”<木曜日の相談室 vol.13>

めまぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」

第7回目のゲストは、カヌー・スラローム選手の羽根田卓也さん。「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、羽根田選手に話をお聞きしました。

羽根田卓也プロフィール
1987年、愛知県豊田市出身。カヌー選手だった父の影響で小学生時代から競技を始め、高校3年時にカヌー・スラロームの日本選手権を制し、卒業後は単身スロバキアに渡って武者修行。10年間以上スロバキアを拠点に活動し、2008北京五輪から4大会連続出場。2016リオ五輪で銅メダルを獲得。パリ五輪へ向けて5大会連続出場を目指す。

相談① :モチベーションの保ち方を教えてください

ペンネーム:とらさん(30代)
昔から負けず嫌いで、昨日の自分に負けないように頑張ってきました。社会人になって7年経ち、これ以上頑張れないかもしれない、今がピークかもしれない、と自分の恐怖心に折れそうです。それでも頑張り続けられるモチベーションの保ち方があれば教えていただきたいです。

僕はストイックではなく、好きだからからやっている

第一印象として、「とらさんは僕なんかよりよっぽどストイックな人なのかもしれない」と思いました。

僕もよくストイックと言われますが、ストイックであろうと気を付けているわけではなく、ただ自分が好きだからやっているだけなんですよ。なので、まったく無理はしていませんし、ストイックと言われることに違和感を覚えることもあります。

肝心なのは、自分のいま取り組んでいることが楽しいと思えるか、または幸せだと思えるかではないでしょうか。苦しいな、イヤだなという感情が、自分を追い込んでしまうんだと思います。

僕も若い頃は競技に没頭していました。かといって、今は昔に比べて練習量を落としたかと言えばそうではないし、当時も今も、やっていることは変わりません。ただ、トレーニングや試合のキツさをネガティブに捉えることはなくなりました。

海外の選手と思いっきり腕くらべをして、結果を評価してもらえる。そんな現場にいられる自分はなんて素晴らしい経験をしているんだ、と今は思えるんです。

苦しければ辞める! 根性論とはかけ離れた“スロバキア流”の考え方

そう考えるようになったのは、スロバキア人のコーチに出会ってからですね。

スロバキアはスポーツに対してすごくフラット。日本的な根性論とはかけ離れていて、「スポーツは人生を健やかに、前向きに過ごすためのツールである」という考え方なんです。辛いときは頑張り続けなくてもいいし、苦しいと思えば辞めてもいい。だから僕も、苦しさを自らに課す必要なんてないんじゃないか、と思うようになったんです。

それからはトレーニングをイヤだと思ったことはありません。もちろん大変だし、毎日キツい。落ち込んだり、悔しいこともあります。だけど、そんな浮き沈みも競技の一部だし、それをネガティブに考えて、人生の無駄な時間だと思うようなことはありません

もし、僕が「これ以上、もう頑張れない」と思ったら、サッと競技を辞めちゃうと思います。世界一のコーチと呼ばれる人が「スポーツの辞めどきは、楽しくなくなったときだ」と言っていましたが、僕もそう思います。スポーツは楽しむためにあるものですから。

ただし、決して楽なほうを選べという話ではありません。やりがいを感じることや、前向きになれることに取り組むのは大切だと思います。

勝負の世界でも、戦っている相手は自分自身

僕も負けず嫌いですが、自分が勝負できる環境にいられることはとても幸せなことだと、日々感じています。

でも、上を見たらキリがありません。カヌーという小さな世界でさえ上には上がいて、僕が本当の意味で世界一を目指そうと思ったら、途方もないことなんですよ。そう考えると、自分と他人を比べて自信を失うことが、いかに無意味かがわかります。

だから、他人と勝負をしながらも、僕は自分と他人を比べることはありません。試合で負けても、人間として劣っているということでもありません。それは、仕事でも同じだと思います。

カヌーで世界を目指すには、生まれた環境や素質も重要な要素です。僕は自分に才能があるとは思わないし、カヌーが強くない日本で生まれたからこそ、どうしても世界と差がつくことは理解しています。

だから、繰り返しになりますが、自分がいかにやりがいを見つけて、人生を楽しむかということに尽きると思いますね。

ずっと上がり続けるなんて、世界のトップアスリートでも不可能。

とらさんは「今がピークかも知れない」とのことですが、僕も良いパフォーマンスが出せない年や、前年より成績を落としてしまうシーズンもあります。

でも、どんな領域だってずっと上がり続けることは無理です。世界のトップアスリートと呼ばれる人たちだって不可能です。誰だって金曜日は疲れていて当然。だからしっかりと週末に休んで、月曜日にまたパフォーマンスを上げることが大切です。

人生はすべてが“過程”です。何かを達成したとしても、それで人生のゴールに辿りつけるわけではありません。オリンピックではメダルを獲りましたが、メダルを獲得した瞬間より、メダルを目標にトレーニングしてきた過程のほうが重要だったし、当然、その過程も調子が上がりっぱなしだったわけではありません。

僕がメダルを獲ることを目標にしていたら、自分はリオで銅メダルを獲った時に競技生活を終えていたと思いますが、「今」も含めて自分にとっての「過程」なので、今日もしっかり練習してから来ました!

モチベーションの保ち方よりも、頑張り続けられるペースを探そう!

頑張り続けるためのモチベーションの保ち方というよりも、頑張り続けられるペースを見つけたほうがいいんだと思います。人間は毎日モチベーションに溢れているわけではないので、上り調子でなくても、続けていくことが大切ですから。疲れたら休んだほうがいいと思います。もっと楽しんでやってみたらいいのではないでしょうか。

スポーツでも、最初に張り切りすぎて、身体がクタクタになって怪我をして終わってしまう選手もいます。楽しく続けられる向き合い方を見つけると、もっと気楽に仕事に取り組めるようになるかもしれません。

もちろん、本当にもうイヤだと思ったら、環境を変えるのも大いにありだと思います。頑張ってください!


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