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アメリカ留学のために手放した収入、キャリア、生活環境……なぜビリギャルは恐れず「ワクワクする道」を選択できるのか?<木曜日の相談室 vol.22>

目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」
 
第12回目のゲストは、1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した“ビリギャル”、小林さやかさん。「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、小林さんに話をお聞きしました。
 ※インタビューはニューヨークからオンラインでご対応いただきました。

小林さやか(こばやし・さやか)さんプロフィール
1988年3月生まれ。
名古屋市出身『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴・著)の主人公であるビリギャル本人。1988年3月生まれ、名古屋市出身。慶應大卒業後ウェディングプランナーとして従事した後、ビリギャル本人としての講演や執筆活動など、幅広い分野で活動中。2019年4月より、教育学の研究のため大学院に進学、21年に修士課程を修了。また2020年1月、YouTubeにて『ビリギャルチャンネル』を開設。学生・先生・親、すべての人に送るエンタメ教育動画 を配信中。2022年秋米国コロンビア教育大学院にて認知科学を学んでいる。

 

相談①「息子の学力が平均以下で、勉強する気もありません」

たろのすけさん(45歳 男性)
中学2年生の息子がおりますが、勉強が嫌いで5教科すべて平均以下で、数学は100点満点のテストで、2点、19点、を取ってきました。国語、英語は平均点より少し下くらいなのですが、なかなかやる気にならず、高校受験を心配しております。
ただ、なんでもそうだと思いますが、自らやるぞとならない限り、無理やりやらせても何の意味もないと思うので、どうすれば良いのかわかりません。
部活はとても一生懸命取り組んでおり、友達もたくさんいるので、勉強は本人がやる気になるまで見守る方が良いのかな、とも考えたりします。

“電気ショック”では、いつか学びを放棄してしまう

まず、息子さんについての印象ですが、「当時の私よりはるか上だな」っていうのが率直な感想です(笑)。私の勉強嫌いは小学校 から高校2年生の夏まで続きました。その間は平均点なんか意識したこともありません。全教科が10点以下で、テストはわからないから誰よりも早く終わっちゃって、答案用紙の裏に曲の歌詞とか書いてましたね。


16歳当時の小林さん

ただ、平均点より下だからと悲観する必要はないと思います 。それはあくまでひとつの基準に過ぎないので。

実際、お父さんがもう既に感じていらっしゃるように 、無理やり勉強させるほうが簡単なんですよね。でもそれが長期的にみて、子どもにとって良い結果につながるかどうかというと疑問です。これは動物の実験でも同じことが言えます。例えばネズミを使った 実験で、バーを押したら餌が出る仕組みの装置があるとします 。バーと餌の因果関係に気づくまで、ネズミはいろんなことを試して学習しないといけないわけですが、放っておいたらただ動かずにそこにいて、仕掛けに気づかないこともあります。そこで、ネズミに無理やり学習させるためにどうするか──。 電気ショックを与えるんです

どうにかして正解を導き出さないと痛い目に遭うので、ネズミが動き回るんです。子ども に勉強を強制することは、それに似ていると思います。純粋で従順な子どもは、「親に怒られるから勉強しなきゃ」と考えますが、親や教育システムから の圧力(例えばテストや受験など)という電気ショックがなくなったときに、自分から学ぼうとしなくなってしまいます

学びは 、一生続くものです 。テストでいい点数 がとれ れば一生安泰ってワケじゃない。学校の勉強は、卒業後に生きていくために必要なスキル を身につけたり、 学び方を学ぶ場だと思います 。だからまず、周りの大人も含めてもう一回、「学校の勉強ってなんだっけ?なんのためにするんだっけ?」って捉え直す必要があるのかなって思います。

アメリカから見た日本の教育レベルの高さ

アメリカに来て痛感したこと は、日本の教育水準の高さです。 日本の教育しか知らない方が多いためか、 「自分たちの教育は遅れてる」っていう方が多いけど、日本人の子どもの学力は世界的に見てすごく高いし、先生も勤勉で仕事に熱意をもって しっかり取り組む方がとても多いです 。

ニューヨークのとある学校の校長に、「教師 育成において大きな課題は何でしょう?」って聞いたら、「まず、どうやったら先生が毎日学校にちゃんと来てくれるか、という点です」っておっしゃったんです 。もう日本と次元が違うじゃないですか。子どもが学校に行っても、先生が来なかったり、来てもちゃんと授業してくれない、なんてことが、日本から一歩出た外の世界で起きていることなんです 。

特に、貧困層が多く住む地域ではよく起きることなんだそうです 。だから、お金のある家庭は教育インフラがしっかり整っている地域に高いお金を払って住むらしい です。これでは、いつまで経っても格差は埋まりません。

日本人には、日本の学校教育が素晴らしいレベルにあることをまず知ってほしい。しかし、子どもたちの自己肯定感や、自分で考えて自分で決める力など、この社会で生きていくために必要なスキルを伸ばすことも重要な教育の役割です。

子どもたちに「暗記すること= 勉強」と思わせてしまっているのは、社会や大人からの暗黙のメッセージのせいかもしれません。 だとしたら大人たちが今一度、「人はなんのために学ぶのか」という原点に立ち返ることは今とても重要だと思います。すると自然に、 子どもへの言葉のかけ方も変わるのではないでしょうか 。


2022年6月渡米前に行ったイベント時の様子

 

モチベーションを保つための「I + 1 (アイプラスワン) 」法則とは

ちなみに、人間って自分のキャパシティを超えたタスクを前にする と、いいパフォーマンスを発揮できないことが多いんです。 かと言って、簡単すぎる課題ではモチベーションが上がりません

たろのすけさんも、「今から2時間、ひらがなの練習をしてください 」と言われて、「よし!頑張るぞ!!」とはならないですよね?「I+ 1(アイプラスワン) 」といって、難しすぎず、易しすぎない、自分の今の能力より少しだけ上のレベルの 勉強が一番モチベーションが高まるんです。だから、適切なレベルは人それぞれ違います。

私は高2の夏から塾で大学受験の勉強を始めましたが、最初の学力テストで小学校4年生レベルだと判断されました。だから、小4のドリルから始めたんです。まさに「I+ 1 」ですよね。

でも、もしここでも「高校2年生なんだから高2の勉強をしな さい」って言われていたら、難しすぎて次の日は塾に行かなかったと思います。もちろん、大学にも行けていなかったはずです。

私を大学合格に導いてくれた恩師の坪田信貴先生は、「勉強についていけなくなったら、6割点が取れるところまで戻れ」って言っていました。特に数学は、前に習ったことの積み重ねで、一回行き詰まるとどんどんわからなくなるので、テストで2点を取ることになっても全然おかしくありません。

部活で“非認知能力”を磨くのは素晴らしいこと!

部活を頑張っていることは素晴らしいと思います。やりたいことが何も見つからない人もいる中で、頑張れる何かがあるというのは本当に素晴らしいことです。非認知能力(学力テストなどでは評価できない能力)を学校で養えなかった人は、社会に出てから苦労します

中2といえば、「自分は人にどう思われているんだろう」と感じ始める頃でもあるし、言葉ではなかなか表現できない感情がめきめきと出てくる時期ですよね。その感情と向き合ったり、日々の対人関係に向き合ったりすることはとても重要な学習で、それは学力にも影響すると言われています。

これをアメリカでは「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL=社会的・情動的学習)」といって、今すごく流行っていて、 カリキュラムに取り入れている学校もたくさんあります。自分や他者の感情と向き合い、感情をコントロールしながら他者と良い関係を築こうとする経験は 人生の幸福度にもつながる、とても重要なスキルです 。SELを学んだ 生徒 の学力が向上した というデータもたくさんあり、 今とても注目されています。

日本ではまだこういった教育 はポピュラーとは言えませんが 、部活は割とSELに近い気がするので、非認知能力を育むにはとてもいい場なんじゃないかと思います。


2023年ニューヨークにて

「日本史はどろどろの昼ドラ」ストーリーで学ぶことが大事!

とは言え、中学校の五教科はとても大事で、すべての学びの基礎になるものです。

どうしても子どもに勉強してほしい と願うのであれば、親御さんが一緒に学べばいいと思います。もちろん、一緒に教科書を暗記するのではなく、エンタメとして 「学びのおもしろさ」を共有するのがおすすめです 。

私は、坪田先生に出会うまで、「過去のことを今更暗記してなにになるんだよ」と思っていたので、「日本史」が大嫌いでした。でも先生は「日本史は 超面白い昼ドラみたいなものだよ」って教えてくれました 。教科書には書かれていないけど、実はそこにはたくさんのドラマがある。そんなふうに日本史をとらえると、突然暗記モノがエンタメになる。一緒に大河ドラマを見るとか、まずは漫画から読んでみるとか、勉強に対する視点が変わると、向き合い方も変わるかも

子どもは大人をよく見ています。すごくいろんなものを敏感に感じ取って、うまく言語化できなくても、実は色々考えていたりします。子どもの周りにいる大人が学ぶことを楽しんでいると、「勉強しなさい」って言わなくても、子どもたちは勝手に学びに積極的になるかもしれませんよね。 ぜひ、一緒に考えて、一緒に学びを楽しんでください 。

相談②「大学院へ進学するか、仕事を続けるかで悩んでいます」

しみさん(28歳 女性)
私は社会人4年目で教育分野に関心を持っている者です。いま、大学院へ進学するのか、このまま仕事を続けるのか悩んでいます。
大学卒業時にも、就職か進学か悩み、「教育をやりたいなら、社会を一旦見ないとダメだ。後で進学しよう」と思い就職を選びました。しかし、仕事が忙しく進学準備ができず、ずるずると時間が過ぎ、自分が何を研究したいのかも迷子になってしまいました。今は進学のタイミングではないのか?
今後のキャリアを考えるともう時間がないのでは、進学したとしても次はどうするのか……と、考え始めたら悩みが尽きません。さやかさんが、キャリア選択をするときにワクワクを大事にしたとお話していましたが、そのワクワクが行動にまで移せたのは何故でしょうか?その原動力が知りたいです。

大事なものを手放す勇気を持つ“麻雀理論”が鍵になる!

これはズバリ、“麻雀理論” ですね。坪田先生が作った造語で、簡単に言うと「手放す勇気を持つ」ってことなんです。

私は麻雀をしないんですけど、麻雀って13枚しか牌を持てなくて、14枚目が手元に来たら何かひとつ牌を捨てなきゃいけないっていうルールなんですよね。

つまり、手札として持てる数の上限は決まっているけど、何かを手放せば新しい可能性が入ってくる余地が生まれる。この考え方は麻雀以外にも当てはまるということで、坪田先生が“麻雀理論”と名付けました。

「ワクワクが行動にまで移せたのは何故でしょうか?」とご質問いただいていますが、その答えはまさに「麻雀理論を実践したから」。そして私からしみさんへのアドバイスも、「麻雀理論を意識してみては? 」というシンプルなものになります。

アメリカ留学のために手放した 収入、キャリア 、生活環境

私は2022 年にアメリカの大学院に進学したのですが、英語ができたわけじゃなかったので、準備には何年もかかるだろうなって思ったし、それは本当に勇気の要る 決断でした。年齢も年齢だったし(34歳)、結婚していて、仕事もある。そんな私が留学するには、いろんなものを手放すしかありませんでした

例えばお金もそうです。日本にいたときは年間100回くらい講演をしていたので、安定した収入を得られていたし 、ちょっとは贅沢もできました。でも、留学すれば 収入が ゼロになるどころか、アメリカでの高い学費、生活費がとんでもない速さで出ていきます。

住み慣れた環境も手放す必要がありました。当時住んでいたのは賃貸の家だけどとても気に入っていたし、留学すれば家族や友達とも簡単には会え なくなる。そもそも日本語で喋る生活でもなくなり 、すべて英語で話す生活に変わります。こんなふうに、たくさん の牌を手放した分 、大きなものが自然にワッと入ってきたと実感しています。 


“未来を決めない勇気”を持つことの重要性

しみさんのように、キャリアについて悩んでいる方の多くが「なにか新しいことに挑戦してみたい」という内なる想いを持っているのではないでしょうか。 そして学生の時と違って、大人がなにか新しいことを始めようとするときには、意図的に勉強時間や準備時間を確保しなければなりません。 また、お金やキャリアなど、もう既に持っているものを手放すことがとても怖く思えて、なかなか一歩踏み出せないのが、人間の心理だと思います 。でもそんなときにはぜひ、この「麻雀理論」を思い出してみてほしいです。そしてまずは自分の持っているもので「あんまりワクワクしないかも」と思うものがないか 、客観的に分析してみるといいと思います。

例えば会社にいるとき、「なんでこんなことしなきゃいけないんだ」って思いながら働いているとしたら、いいパフォーマンスが発揮できていない可能性が高いので、 自分にとっても周りにとってもあまり良い状況とは言えません。今、あなたがそれに使っている時間がながければ長いほど、思い切ってそれを手放せば、それだけ大きな変化があなたの人生に入ってくることになります。

私は悩んでいるしみさんに対して、「進学したほうがいい」とも「そのまま仕事を続けたほうがいい」とも言えません。でも、仮に、なんとなくでも、「ここじゃないどこかに行ってみたい」という願望があるのであれば、もう既に持っているものに固執せず、少し余白を持って、新しい可能性に想いを馳せてみるのが、個人的にはおすすめです。

私が現在通っているコロンビア 教育大学院には、教員を続けながら夜だけ大学院で学んでスキルアップを目指す人や、全く違う業種から教育を学びに来ている人など、色んな人がともに学んでいます 、 中には 、大学院で学んでいるうちに「あっ、こういう道もあるんだな」と、これまで想像できなかった道が突然拓ける人もいると思います。

しみさんの「学んだとしても、その先は……?」という不安は、私も、おそらく私のクラスメイトたちもみんな共感すると思います。その先のことは何も決めずに、進学している人がほとんどだという印象です。

私も留学前から 「留学してそのあとは何するの?」ってたくさん聞かれました。 そのたびに「今はまだ考えていません」って正直に答えていましたね。だって、新しい環境での生活や学びを通して、自分の考え方や価値観は絶対に大きく変わるはずだし、その先のことなんて今決めたってどうせ変わるから

それくらい、キャリアチェンジを気軽にとらえても いいんじゃないかな 。新しい環境に飛び込めば、新しい出会いや経験は自然と舞い込んできて、 それが予期せぬキャリアに繋がったりもする。 むしろ今から全部を決めちゃうと、そういう可能性が狭まっちゃうこともあるので 、“未来を決めない勇気”を持つのも大事だと、個人的には思っています 。

迷子になったら立ち止まって、自分と対話する

今しみさんは、何がしたいのかわからなくなっていて迷子になっている気がする、とのこと。私はこういうときはまず、自分のことをよくわかってくれている人(私の場合は坪田先生や夫)に、とにかくモヤモヤも含めて話してみる、ということをします。文章にしてノートに書き出してみるのもいいと思います。言語化することは、「考えること」です。それでも、まだなにかピースがはまらないと感じるのであれば、興味のある分野の人に話をきいてみるのもありだと思います。そこで感じる自分の感情としっかり向き合って、自分と対話する。そこからなにか、新しいワクワクが見つかって、その先に進んでみたい道が見えてくるかもしれません。

進んでみて、「違った!」と思うならまた別の道を模索すればいいだけ。それを失敗と捉えず、「これで成功に一歩近づいた!」と捉えるマインドを持つこと。そうすれば、一歩踏み出すのが恐ろしく怖かった自分を、なんだか懐かしく思える日がいつかかならず来ると思います。しみさんが、自分らしく、自分の人生を謳歌できますように。お互い楽しみましょう!
 

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