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「オークションを通じて、世界中のお客様へアートを届けたい」毎日オークション代表の私が思い描く未来

「アート作品が数億円で落札された」というニュースを目にすることがあるかと思いますが、「オークション」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか?

個人間で気軽に取引できるネットオークションは身近に感じるかと思いますが、ニュースで目にする美術品オークションは少し遠い世界のように感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実はマイナビグループでもこの美術品オークション事業を行っています。

毎日オークションは1973年に株式会社毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)の美術事業部としてスタートして以来、ミロのカタログ・レゾネ※刊行、欧米の版画作品を日本に紹介する事業を展開したことに始まります。

今回は、長年この業界に携わっている、毎日オークションの代表であり、「オークショニアー」としても活躍している望月さんにオークションの魅力や今後のオークションの展望などをインタビューしました。

※総作品目録


プロフィール

株式会社毎日オークション 代表取締役 社長執行役員 望月宏昭
1991年 株式会社毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に新卒入社。
出版、海外事業部勤務を経験後、1997年に美術事業部に配属。
2001年 美術事業部が株式会社毎日オークションとして分社化。
2006年取締役、2008年代表取締役社長に就任し、現在に至る。

出版から美術業界へ飛び込む

ー美術品オークションに関わるきっかけ
私は1991年に新卒で入社し、出版事業部でニュース事典の販売・管理、海外事業部で日中・日豪の学生のスポーツや公演団体の交流企画の営業や添乗業務などを担当していました。いずれもマイナビと社名を変更する前の時点においても社内でマイナーな事業でしたが、歴史と伝統、個人商店的なエネルギーを実感できる仕事で、貴重な体験でした。

そのような経験を経て、入社7年目の1997年にオークション事業を行う美術事業部に配属されました。新しいことに挑戦したいと思っていたタイミングだったので、とても前向きな気持ちでした。
それまで美術は全くの専門外でしたが、版画作品の文献調査やカタログ制作のために作品サイズを測ったり、撮影の補助をしたりと、最初はなんでもやっていましたね。
当時は経理も含めて12名程度の小所帯で、作品を移動したり、会場を設営したり、あらゆる作業を全員で行う体制だったので、オークション運営を身をもって学びました。

コロナ禍以降、オンラインでの参加も増えたオークション

ー実際のオークションの流れ
まず、オークションは美術品をお持ちのお客様から出品の希望を承るところから始まります。作品を確認、査定しご納得いただいた上で作品をお預かりします。
そこからお預かりした全ての作品を撮影し、オークションカタログやオフィシャルサイト等で情報を公開し、購入希望のお客様に検討していただく時間を設けます。

オークションの前には「下見会」が開かれます。この場で全ての出品作品を展示し、実物を確認できる機会を設け、直接作品の魅力を感じていただきます。実際に手に取って、好きな角度から作品を見ることができます。

事前に下見を済ませたお客様は当日の会場での参加に加えて、WEBからの事前入札や電話ビッド、オンラインでリアルタイムに入札できるライブビッド等、様々な方法でオークションに参加することが可能です。

特にライブビッドはご自宅に居ながらにして会場と同様の臨場感で競りに参加できるので、コロナ禍以降、その簡便さから利用される方が増えた参加方法のひとつです。
多様な世代の方々がライブビッドを活用し、楽しんでいただいています。

ー「オークショニアー」とは
オークションは出品者と事前に取り決めたルールにしたがって、「オークショニアー」と呼ばれる競りの進行役が進めています。

オークションで「カンッ!」とハンマーを叩く人を見たことがありませんか。

「オークショニアー」は競りのスタート価格や、最終的な落札者とハンマープライスを決定する権限を持ち、入札希望者をテンポよく捌いていきます。海外では国家資格でもあるんです。テンポやタイミングなどがとても重要で、気持ちよく買っていただけるように、お客様の表情や会場の雰囲気を感じることはもちろんのこと、競りに飽きがこないよう抑揚をつけた進行を心掛けています。

美術品の競りを行うライブ型のオークションを年間30回以上開催

ー毎日オークションの特徴
毎日オークションは取り扱いジャンルが幅広く、出品点数が多いことが特徴です。絵画・版画・彫刻のオークションは毎月行っており、年4回のメインオークションでは1億円以上の作品が出品されることもあります。一言で版画といっても江戸の浮世絵や明治の新版画、棟方志功や昭和を代表する創作版画、草間彌生、奈良美智、村上隆、アンディ・ウォーホル等の現代美術、パブロ・ピカソ、アンリ・マチス、ジョアン・ミロ、マルク・シャガールの外国版画と多彩な作品が毎月出品されるオークションは国内どころか海外にもありません。

ジュエリーや腕時計、ワイン、ブランドバッグ、アパレル、デザイン家具といった嗜好品のセールも年6回。日本の工芸品も古陶磁から蒔絵・七宝・金工・陶芸の人気作家、茶道具、中国や韓国の古美術や発掘モノ、ガレやドームなどの西洋アンティーク、マイセンやバカラ等の食器類、ペルシャ絨毯と多岐にわたる作品を取り扱い、国内随一の広い会場を活かした下見会・オークションを月に3回以上のペースで開催し続けています。

時にはスポーツ選手のサインボールやカルチャー特集を開催したり、参加者に楽しんでもらえるよう工夫をしています。

ライフスタイルの変化によりニーズも多様化

ー最近のオークションの傾向
ライフスタイルの変化によって、求められる作品も変化し、細分化しています。
マンションに住む方が増え、立体的よりも平面的なものが飾りやすいとされ、具象的なものよりも抽象的なものが洋室、和室問わずどんなお部屋にもマッチし、人気があります。

オークション市場で取り扱われる作家・作品は嗜好やライフスタイルの変化、新しい価値観によって大きく変わりつつあります。同じ作家で同じ大きさでも、作品の優劣によって評価が大きく違ってきており、レベルの高い作品に対する需要が以前よりも強くなっていることを感じます。

かつて日本は中流階級の層が厚く、美術品市場でも数百万円単位の巨匠の本画ではなく、それを版画化した限定作品など、ミドルクラスの作品が一般的には求められていました。

しかし、リーマンショック、コロナ等、時代の変遷とともにより高額な買い物をする富裕層が増えた一方で、中間層の数が少なくなってきており、傾向としては500万円以上か、10万円程度といった購買層の二極化が進んでいます。高額品はより丁寧に、気楽に楽しめる作品はより参加しやすい販売チャネルを用意するとともに、従来とは異なる開催スケジュール、開催方法を構築していきたいと考えています。

敷居が高いと思われてしまいそうなオークションですが、実ははじめての方でも気軽に楽しめる魅力があります。
美術品だけでなく腕時計やワイン、食器、デザイン家具等、百貨店で新品で売られている値段を知っていると再販市場での価格がなんと安いのか、と驚かされます。

アートオークションのリーディングカンパニーとして、可能性を広げていきたい

ーブランドリニューアルの想い
マイナビから分社化してから20年が経過し、コロナ禍や働き方改革で仕事に対する取り組み方が多様化しつつあった2022年、毎日オークションは「すべての人と世界をアートでつなぐ『架け橋』となり、文化的で豊かな社会の実現をお手伝いします。」というパーパスを策定しました。
「アートの可能性の扉を広げ、今までの生き方にとらわれない、新しい未来が見えるようなサービスを提供し続けていきたい」という思いから、既存の枠組みや先入観、思い込みに囚われることなく、 柔軟性や変化を受け入れ、心新たに取り組んでいくという姿勢を示すためにビジュアルもリニューアルしました。

オークションを通じて、地域、世代を超えて世界中のお客様へアートを届ける

ー今後の展望
これまでは中間層に向けたマーケティングで作品数、流通量の多いジャンルを取り扱うことによって充分な成果を上げることが出来ました。
今後はより細分化されたジャンルの中でレベルの高い作品の取り扱いを増やし、丁寧な販売方法を実現していく必要があります。

同時にこれまで取り扱いのなかった新しい商材も増やし、従来の取り扱い作品との入れ替えを行っていく必要があります。常に新しいことにチャレンジするマインドを持つ個人と、それを実現するために協力できる組織、会社でありたいと考えています。

幕末明治期の開国以降、浮世絵、有田や薩摩の陶磁器、芝山細工をはじめとする漆器や七宝、金工等の工芸品が海外に輸出され、世界中から高い評価を受けてきました。
第二次大戦後は復興に伴う日本の経済力の伸長によって良質な西洋美術品が大量に輸入されました。反対に江戸以前に輸入された中国美術は1990年代以降、中国の経済発展に伴いものすごい勢いで中国に里帰りしていきました。

近年ではアニメ・マンガや日本の戦後美術、現代に活躍する作家にも注目が集まっており、日本国内にある非常に幅広い美術品、工芸品は、世界のアートディーラーやコレクターから高い関心を寄せられています。将来的には海外にも拠点を持って下見会やオークションを通じて国内外双方向に対する情報発信を強化し、美術品、工芸品の流通を盛り上げることの出来る会社になりたいと思います。