見出し画像

「仕事が断れず、頑張りすぎて、疲れてしまう」というお悩みに「断る勇気」ではなく「お願いする勇気」をとアドバイス!『嫌われる勇気』古賀史健さんが大事にする勇気とは?<木曜日の相談室 vol.34>

目まぐるしく変化する毎日、慌ただしく駆け抜けた今週もあと少し。そんな木曜日の1日に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなれるお部屋、「木曜日の相談室」
 
第34回目のゲストは、『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』などのベストセラーを世に送り出したライター・古賀史健さん。「いま、わたしが相談したいこと」をテーマに相談を募集し、古賀さんに話をお聞きしました。


古賀史健さん プロフィール

ライター、株式会社バトンズ代表。1973年福岡県生まれ。主な著書に世界40以上の国と地域、言語で翻訳され世界的ベストセラーとなった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著)のほか、『取材・執筆・推敲』、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』などがある。最新刊は『さみしい夜にはペンを持て』。2015年、ライターズ・カンパニーの株式会社バトンズを設立後、現在に至る。

相談①「どうしたら嫌われる勇気を持てますか?」

ぺんぺんさん(40代 女性)

『嫌われる勇気』を読んで、当時落ち込んでいた私は、とても勇気づけられました。最初に読んでから10年近く経ちますが、読んだときはとても生きやすくなったと思いますし、根底にはアドラー心理学のマインドは持っているつもりです。しかし、ついつい日々の仕事の中でやはり他者からの評価や期待に応えようと、頑張りすぎて疲れることも度々です。
こういう時に、どうしたら、嫌われる勇気を持つ事に立ち戻れるか、何かアドバイスがあれば教えてください。

嫌われることに限らない。大切なのは「勇気」そのもの

ぺんぺんさん、はじめまして。まずは『嫌われる勇気』を読んでくださり、どうもありがとうございます。頑張りすぎて疲れてしまう、つい周囲の期待に応えようとして、嫌われる勇気を発揮できない、というお悩みですね。
 
ご存じのとおり『嫌われる勇気』は、オーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーの思想を紹介した本です。アドラーは、いまからおよそ100年前に活躍した人物で、ジークムント・フロイト、カール・グスタフ・ユングと並んで「心理学界の三大巨匠」とも呼ばれています。

ただし、アドラーが「嫌われる勇気を持つこと」のみを訴えた心理学者かというと、そうではありません。現在、『嫌われる勇気』という本のタイトルが印象的だったせいか、そうした誤解も広がっていますが、アドラーが説いたのは嫌われることに限らない「勇気」そのものの重要性でした。また、あの本に登場する哲人も「嫌われること」自体を推奨しているわけではなく、「嫌われることを恐れるな」と訴えかけています。
 
では、お悩みの内容に触れていきましょう。おそらくぺんぺんさんは、上司や同僚から仕事をお願いされると、無理をしてでも引き受けてしまっているのでしょう。だからこそ「嫌われる勇気」を発揮したい、いわば「断る勇気」を身につけたい、と考えておられるのではないかと思います。
 
たしかに「嫌われる勇気」と「断る勇気」はとても近い考え方です。ご自分の体調やプライベートの時間を優先して、断るべき仕事は断ったほうがいいでしょう。

「断る勇気」よりも「お願いする勇気」を

 でも、別の「勇気」を考えてみませんか? たくさんの仕事を抱えてキャパオーバーになっているときには、「周囲に助けを求める勇気」も必要です。「いまたくさんの仕事を抱えてるから、少し手伝ってくれない?」とか「もしよかったら、この仕事をお願いできないかな?」と、周囲の力を借りてみる。ぺんぺんさんの場合、そのほうが先決ではないかと思いました。
 
もちろん、他者の助けを借りるためには、勇気が必要です。相手に申し訳ない気持ちもあるでしょうし、自分の弱さを見せるような気がしたり、能力不足、キャパシティ不足と見られるような恐れもあるのかもしれません。
 
ただし、アドラー心理学では「人びとはわたしの仲間である、という意識」を持つことを目標のひとつに掲げています。ぺんぺんさんが周囲を助けているように、同僚のみなさんもまた、ぺんぺんさんを助ける仲間なのです。
 
長年フリーランスとして働いてきた僕も、以前は周囲に頼ることが苦手でした。たくさんの仕事を抱えて、すべてを自分一人でやろうとしていましたし、一人でやりきることが自分の能力を証明することにつながると思っていました。

しかし、ある時期から周囲に頼ることを覚え、周囲の人たち(たとえば編集者さんやデザイナーさん、また友人など)の意見を積極的に採り入れるようにしました。自分一人でやる仕事に、どこか限界を感じたからです。その結果、いい相乗効果が生まれ、それまで以上に満足のいく仕事ができるようになった気がします。たとえば『嫌われる勇気』も、共著の岸見一郎さんや編集者さんとのコラボレーションで生まれた一冊です。僕一人では、このような本にはなりませんでした。
 
「断る勇気」よりも「お願いする勇気」。まずはその方向で考えてみてください。

相談②「コミュニケーションが苦手です」

りっくんさん(20代 男性)

私は、幼い頃からその場の距離感やコミュニケーションが苦手です。その場の雰囲気や会話など、とにかく理解することが苦手です。どうしたらいいでしょうか?

相手の気持ちを知りたいと思うなら、まずは自分のことを伝えよう

りっくんさん、はじめまして。ご相談どうもありがとうございます。対人コミュニケーションが苦手で、とくに相手の気持ちを理解することに苦労している、というお悩みですね。
 
コミュニケーションの原則って、相互理解なんですよ。お互いがお互いの思いをわかり合ったとき、ようやくコミュニケーションが成立したと言える。だから、りっくんさんが相手のことを「わからない!」と思っているのだとしたら、相手の方もりっくんさんのことを「わからない!」と思っている。そういうものなんです。実際、今回りっくんさんがお寄せくださったメッセージも、どんな状況で、どういう問題が起きているのか、そしてりっくんさんがどういう方なのか、少しわかりづらいところがありました。

じゃあ、どうすれば相互理解の道が開くのか。これはもう、「自分から心を開いていく」の一点に尽きます。相手の気持ちを知りたいと思うなら、まずは自分のことを伝えるのです。りっくんさんが敵ではないことを示し、仲間であることを示すのです。自己開示ですね。りっくんさんが自己開示をすることなく、いわばガードを固めたまま相手と向き合っていたら、相手の方も警戒してガードを解いてくれません。

まずは「自分をオープンにすること」。それが相互理解の第一歩

たとえば僕は、ライターとして初対面の方にインタビューする機会があります。これまでに何百人、もしかしたら何千人という方々にインタビューしてきました。当然、初対面ですし、相手は大企業の社長さんだったり、超有名人だったり、昔から憧れてきたスターだったりすることも多く、インタビューの場では緊張します。

でも、緊張しているのは相手の方も同じなんですよね。どんなに取材されることに慣れた方でも、完全に無防備な状態でインタビューの場に臨む方は、ほとんどいません。どんなインタビューをされるんだろう、このインタビュアーはどんな人なんだろう、これはどんな記事になるんだろう、と心の中で身構えている方がほとんどです。

こういうときに大切なのは、まずは自分(この場合はインタビュアーの僕)が心を開き、雑談っぽい話をしたり、自分の悩みを打ち明けたり、相手の方への敬意と好意を率直に示すことです。「わたしはあなたの味方です。大好きなあなたの話を、素晴らしい記事にまとめたいんです」と言外に示していく。そうする中で、少しずつ心の壁がなくなって、スムーズなインタビューを進めることができます。

ボクシングの試合をイメージしてください。りっくんさんがガチガチにガードを固めていたら、パンチを受けない(傷つかない)代わりに、りっくんさんの顔は見えず、相手の顔も見えません。りっくんさんが心のガードを降ろしたとき、はじめて相手の顔も見えるし、相手もりっくんさんの表情を見てくれるでしょう。
 
なかなかむずかしいかもしれませんが、まずは「自分をオープンにすること」。それが相互理解の第一歩だと考えましょう。