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欧州の新たな価値観を日本へ!マイナビのワルシャワ駐在員が出資を決めた“想い”とは?一人暮らし高齢者のQOL向上を目指すフィンランド企業とのつながり

2023年9月、マイナビはフィンランドのスタートアップ企業への出資を実行しました。出資先の企業名は「Gubbe(グッベ)」。一人暮らし高齢者のQOL向上を目指し、女性2名で創業した企業です。

マイナビがなぜ欧州へ?そしてなぜ、高齢者を対象とした事業展開をする企業へ出資したのかーー。

今回の「きっかけをデザインするひと」では、ひとり欧州の地で「新たな価値」を求めつながりをつくる「きっかけ」に携わった1人のマイナビ社員を紹介します。

プロフィール

グローバル経営戦略室 欧州事業企画部 部長/島森浩一郎
1975年7月生まれ。
2007年3月中途入社で、出版事業本部(現・マイナビ出版)に配属。
その後、世界遺産検定事業部(現・マイナビ文化事業社)、転職情報事業本部、北陸支社などを経て、2017年1月グループ経営統括本部。2020年2月より現職。

ミッションは「欧州と日本をつなぐこと」

私の所属するワルシャワ駐在員事務所(ポーランド)は、2020年2月にマイナビ初の欧州拠点として開設されました。欧州の中でも、ポーランドやルーマニアなどの中東欧、フィンランドやスウェーデンなどの北欧、そしてエストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国は、サイバーセキュリティやデータサイエンスなど高度IT/AI分野の産業が発達し、若く優秀な才能にあふれています。

ワルシャワ駐在員事務所の開設当初のミッションは、欧州人材と日本企業を繋ぐための調査でした。しかし、赴任直後に新型コロナウイルスのパンデミックが始まり、続いてウクライナ戦争が勃発。

予測不可能な事態が連続しましたが、欧州から撤退することなく、現地で地道にネットワークを構築してきました。これまでの取り組みにより、現在、様々な機会創出に結びついていると感じています。

私の仕事の基本にあるのは、欧州における市場調査と情報収集です。これは単にインターネットや資料からというわけではなく、人と人とのつながりから情報を入手し、当社ビジネスや日本の国益に資する可能性のある人物や組織と出会い、信頼関係を構築することから始まります。意思決定のために広く情報を得て分析する、いわゆる「インテリジェンス」の要素がある仕事だと思います。

2019年6月の現地調査の際に撮影した1枚@フィンランド

その中から出資先候補となる企業を見つけたり、各国の政府機関や企業のニーズを探りながら、協働できる事業を模索したりします。ワルシャワが拠点ですが、北はフィンランドから南はブルガリアまで、各国の関係者と日々メール等でのやり取りや対面での打ち合わせを行っています。

“突然の訪問”からはじまった関係づくり

今回の出資の舞台となるフィンランドは、ヘルステック(健康)やエデュテック(教育)、クライメットテック(地球温暖化対策)など、サステイナビリティ実現を目指すスタートアップが多く、IT関連のイノベーションが活発な国です。

首都・ヘルシンキの隣にあるエスポー市は、テクノロジーと経済、アートという3領域を統合して誕生した「アールト大学」のお膝元で、北欧でもトップクラスのディープテック(課題解決のための専門性の高い技術)の中心地となっています。

欧州に駐在員事務所を設立するため調査を開始した2019年から、エスポー市とは情報交換を進めていましたが、パンデミックの影響で直接訪問したりお会いしたりすることができない日々が続きました。

地下鉄駅に直結したアールト大学の建物

パンデミックが終息した2022年5月、久々にフィンランドを訪れ、エスポー市投資誘致局の方とお会いした際のことです。一人暮らしの高齢者を心理的にサポートするスタートアップ企業が同じ建物に入っていることを教えてもらいました。

その話を聞き、高齢者を含む全世代を対象としたサービスの可能性やSDGs貢献という観点から興味を抱きました。そして、すぐにそのスタートアップに連れて行ってもらえないかと、投資誘致局の方にお願いしたのです。

これがGubbeとの最初の出会いとなりました。

事前のアポ無しで突然の訪問でしたが、共同創業者のメリ・トゥーリが温かく迎えてくれたことを覚えています。この日以降、オンラインも活用しながら同社と意見交換を重ね、出資に向けてお互いの信頼関係を醸成していきました。

祖母を想う気持ちがGubbeのスタート

Gubbeは、Sandra Lounamaa(サンドラ)と Meri-Tuuli Laaksonen(メリ・トゥーリ)の2人の女性が立ち上げたスタートアップです。サンドラが一人暮らしをしている祖母のメンタル不調について心配し、看護師資格を持ち学生にも教えるメリ・トゥーリに相談したことから、2人で事業を立ち上げようと考えが至ったそうです。

Gubbe創業者のMeri-Tuuli(左)とSandra(右)

「自分の祖母を安心して任せられる、信頼できる高齢者介護サービスがなぜ存在しないのか」。サンドラの想いから始まったGubbeは、家事、活動的な維持、移動、介護などの支援を必要とする高齢者と「Gubbeヘルパー」と呼ばれる若者をつなぎ、創業以来、一人暮らしの高齢者の生活サポートと心理ケアを行う介護サービスを提供しています。

それぞれ専門性も個性も異なる2人ですが、お互い足りないところをサポートし合い、絶妙なコンビネーションを発揮できているからこそ、起業に踏み出せたのだと理解できました。

北欧では女性の社会進出は当然のことですが、それでも女性が未知の領域でビジネスを立ち上げる際は、資金調達を筆頭にたくさんの苦労があったそうです。そこをクリアした彼女たちのバイタリティと、「自分や家族の時間を仕事の犠牲にしない」というポリシーをしっかり守り、両立させている点に感嘆させられます。

Gubbeではリモートワークが浸透していますが、それでもオフィスでは社員が自由な雰囲気の中、仕事に打ち込んでいる様子を目にします。今年の初夏にサンドラに第二子が誕生したのですが、彼女は生まれて数カ月の赤ちゃんをオフィスに連れてきて、社員が膝の上に載せ交互に世話をしながら笑顔で働いている様子が印象的でした。

マイナビ土屋社長がGubbeを訪問し同社経営幹部と撮影した1枚
訪問の際は手作りのお菓子を用意し、私たちをもてなしてくれました

社会貢献だけではなく、ビジネスとしてのスケールアップも

サンドラの自分の肉親への想いと、メリ・トゥーリのプロのノウハウが融合して起業できた事実がGubbeのオリジナリティですが、単なる社会貢献ではなく、ビジネスとしてスケールアップを目指し、その過程であらゆるステークホルダーの満足度を高めようとしている点も魅力の一つです。

Gubbeは「相棒」または「友人」を意味する言葉です。 一人暮らしの高齢者を心理的にケアする役割を担う若者は「Gubbeヘルパー」と呼ばれ、彼らGubbeヘルパーと高齢者をつなぐ点が、このサービスの根幹となっています。

Gubbeのサービスのイメージビジュアル

さらに、Gubbeヘルパーの採用や利用者とのマッチング、サービス利用の管理までのプロセスを一括管理することが可能なアプリを開発・提供しており、サービス利用者とGubbeヘルパー双方の利便性向上と透明性確保に努めています。このように、テクノロジー(アプリ)と専門技術(ナーシングや心理学)を導入し、最もリソースを割いている点はとても素晴らしいと感じています。

このような基盤を固めた上でGubbeは、BtoCだけでなくBtoB(企業の社員向け福利厚生プログラムとしての導入)やBtoG(自治体で市民向け公共サービスとしての導入)へ展開し、スウェーデンや英国でもサービス開始に着手しビジネス拡大を目指しています

サポートを必要とする高齢者とその手助けを行うヘルパーとをつなぎ、双方に価値を提供するこれらのビジネススキームが、今後、高齢化問題を抱える日本はもちろん、海外市場へ展開されることを期待しています。

少子高齢化は先進諸国の喫緊の社会課題――提供できる価値とは

北欧は欧州の中でも高齢化が急激に進んでいる地域です。また緯度が高く、冬季の日照時間の短さは世代を問わずメンタルヘルスに負の影響を与えます。こういった特性から長年、社会福祉政策の充実が図られ、民間でも革新的なサービス創出に繋がっています。

高齢化社会への対応、メンタルヘルスサポート、女性の社会進出。これら3点は北欧が世界をリードし、多くの知見を蓄積していますが、Gubbeはこの領域に日本から接点を持つ際の入口になり得ます。

少子高齢化が急激に進む日本はもともと人口が多いがゆえに、北欧ほどの危機感がまだ感じられないように思えます。また注目される内容は、介護の辛さやヤングケアラーなど負の側面が多いのが現状です。

性別を問わず全ての世代が高い満足度を享受できるスキームづくりに長けた北欧の価値観、そしてGubbe社のビジネス理念から、今の日本は多くを学べるはずですし、積極的に取り入れるべきだと考えています。

欧州というエリアで感じる手ごたえとこれから

2023年10月にエスポー市が開催した日本企業向けミッションでの参加者集合写真。
前列右端が島森さん

ワルシャワ駐在員事務所を設立した2020年から2022年までは、欧州はパンデミックとロックダウン、続いてウクライナ戦争勃発に翻弄されましたが、中東欧諸国のIT産業や高度人材についての調査とネットワーキングに地道に注力してきました。

IT人材に特化したオンライン採用プラットフォーム・スキルアセスメントサービスを提供するポーランドの「ChallengeRocket」社へ2021年秋に出資(当社にとっての欧州第一号の案件)したことは、それを象徴する一つです。

また経済産業省から、中東欧IT人材と日本企業を繋げるための事業を受託して、企画・実行に移せたことも、現地での知見蓄積の成果と言えます。

当社がパーパスを掲げ50周年を迎えた今年2023年からは、さらに新たな価値を欧州に見出す第一歩を踏み出したいと考えました。そこには北欧が得意とする「サステイナビリティ(持続可能性)」「ダイバーシティ(多様性)」「イノベーション(革新性)」に加え、「SDGs」「ESG投資」というキーワードも重視されるはずで、Gubbeとの関係構築はその最初のステップです。

おかげさまで中東欧エリアでは、マイナビが進めている高度IT人材関連の活動に対する認知度が高まっている手ごたえを感じます。

今後は北欧やバルト三国で、マイナビグループのパーパス実現に資するようなソーシングを加速し、循環型経済実現を目指すエコシステムの一員としてのブランディングを進化させていきたいと考えています。

Gubbe共同代表の2名と島森さん



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